右脳左脳の話は今や有名だが、Scientic American 7月号に"Origins of the left and right brain"(なぜ単数なのかなあ)という、米Texas大、豪New England大、伊Trento大の3教授の共同論文が掲載された。つい数十年前まで、右脳左脳の働きに違いがあるのは人間だけだという学界の理解になっていたそうだ。それに筆者は真っ向から反論を繰り広げる。
5億年前に脊椎動物が誕生して以来右脳左脳の働きには差が生じたと筆者はいう。脊椎動物が、魚、爬虫類、両生類、鳥、獣、霊長類などに進化しても、この右脳左脳の働きは受け継がれ、人の右脳左脳に進化して来たという。元来脊椎動物の左脳は通常の慣れた動作を担当し、右脳は天敵の襲撃など予想外の出来事の検出と反応を担当した。即ち左脳は自主行動をTop Downで制御し、右脳は危険な状態にBottom Upで即座に対応する。
その主張は次のような実験に基づいている。餌を取るのは慣れた仕事だから左脳の仕事であり、神経は左右クロスしているので右半身の仕事である。ひき蛙の周りに回転する円盤にバッタの模型を置き、時計周りに回転させると、必ずひき蛙は、バッタが真正面を過ぎて右目の視野に入った段階で襲う。反時計周りで回転すると左右ほぼ同頻度で襲う。このことから右側の餌を襲う方が得意としている。人間の両眼は前向きでほとんど同じ視野を持つが、ひき蛙の両眼は別方向を向いている。或る鳥は、常に右側の餌をついばむため、くちばしが若干右にカーブしているという。
一方蛇の模型をひき蛙の右側(→左脳)または左側(→右脳)から突き出し、直ちにサッと隠してみると、右側からの場合はひき蛙は無視するが、左側から突き出すとひき蛙は即座に跳んで身をかわすという。このため右側から襲うことを覚えた動物もあるそうだ。
霊長類では右利きが益々顕著となり、複雑な仕事は右手で行うようになった。その流れで左脳→右手はCommunicationを担うようになる。猿は右手で地面を叩いて仲間に意思伝達するし、人の手振りも右手が多い。受信側を調べた動物実験によれば、アシカ、犬、猿が仲間の鳴き声の意味を理解するのは左脳と知られているとのこと。
一方右脳はパタン認識と感情を扱うように発達した。猿、犬、羊は仲間を顔で個体識別するが、その識別能力は右脳にあるという。人が他人の顔色を不快そうとか好意を持ってくれたとか読むのも右脳とされている。
このようにして左脳は、通常動作→Communication→言語→解析・論理思考を扱うように発達し、右脳は、緊急動作→パタン思考→感情を担当するようになった。小さなAの活字を沢山並べてHの字を作った紙を人間に見せて、別紙に復元させる実験では、右脳に障害のある患者はH型を無視してAの字を無秩序に書き連ねるそうだ。左脳に障害があると逆にAの字を無視して大きな3本の直線でHを書くという。このことから右脳は大局視点、左脳は細部視点という分担もあることが判る。
この記事には左利きの人のことは何も書いてなかったが、疑問に思って調べた。左利きは右脳左脳の役割が反対なのではなく、通常の右脳左脳の働きの上に右脳→左手の運動神経が発達した人なのだ。右利きに比べて左利きの人は多少とも「両手利き」の傾向を持つことが知られている。また右手利きが必ずしも右足利きではないことも周知の通りだ。左利きは約1割だが、女性よりも男性に多い。一卵性双生児は、一方が左利きなら他方も76%の確率で左利きであることから、遺伝的なものと推測されていたが、2007年には活性化すると左利きになり易い遺伝子が特定された。
左利きの人は右脳を多用するので右脳が必然的に発達する。そのため右脳が分担する機能が強く、考え方に特徴があるとされる。右利きvs左利きの人の考え方の特徴をそれぞれ逐次処理vs視覚的即時処理、解析的処理vs総合的パタン合致処理、言語処理vs視覚処理にそれぞれ対応させることができる。左利きはより創造的で多重処理(Multi-task)が得意だとも言われ、芸術学科の学生には左利きが多く、理科系には少ないという統計もある。同性愛者には左利きが多いともいう。なお左利き右利きに関わらず右脳または左脳が強い人が居ることも念押ししておかねばなるまい。 以上