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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2003年 1月13日
             ブランド

 関係している起業会社の社長が年頭に、今年の会社の方針の一つに「ブランド確立」を掲げた。独自ブランドでの商売が増えたから当然の注力というだけでなく、時代的視点からも正鵠を射た施策と感心した。

 ブランドは差別化の自己主張であり、存在価値の主張である。「我が社にはこういう特徴があり、こういう面で社会と顧客に役立っています」というメッセージである。例えばSonyは「生活を豊かにするハイテク」のブランドを非常に大事にする会社として知られており、それが消費者に認識され同一製品なら5-10%は高い値付けでも売れる。逆にそのブランドに反する製品は儲かってもやらない勇気を持っている。

 ブランドの反語は、特徴や自己主張の無い没個性であろう。特徴が無くても生き残る企業は、実は熱心で文句を言わず無理を聞いてくれる低コストの会社という「特徴」を持つ。そういう会社がかって日本の高度成長を支えてきた。典型的には「可愛い外注先・下請」だ。頭数を代表とする経営リソースが成長への唯一の制約条件であった高度成長時代には、無色透明で低コストの外注先・下請が大企業の分身として必須だったのだ。その大企業すら横並びの「Me-Too施策」で没個性の道を邁進していた。

 バブルが弾けて経営リソースが過剰になると、可愛い下請は不要となり、真っ先に切られた。代わって販売能力など特徴能力や特徴技術のある頼り甲斐のあるパートナ企業が欲せられた。競争激化を生き延びるための戦力強化に役立つパートナだ。そういう企業に限って、納得しなければ文句も言うし気に入らなければ背を向ける。可愛くはないが仕方が無い。低コストすら或る種の企業の特徴となり、自立的低コスト企業が確立した。ここにブランド成立の条件が整う。「素早い試作代行」「若年技術者のヘッドハンタ」「美味いコーヒー」「安い引越し」などの特徴ある企業、存在価値のある企業がブランドを浸透させた。

 ブランドの必要性は企業に限らない。企業で働く社員個々人にブランドが必要な時代になっている。「さして特技はないが熱心かつ従順で、周囲との協調性があり、上司の引越しの手伝いでもする」可愛い社員は要らなくなり、ASICを設計させれば他の追随を許さないとか、どんな条件下でも販売計画以上には絶対売るとか、仲の悪い人間でも部下に置けば必ず協力させて業績を上げるとか、何か特徴がある社員が、例え時として社長に噛み付こうとも、評価される時代となった。

 1994年に私は盛んに部下に「あなたの特技は何ですか? 何を特技として世渡りをしますか?」としつこく問うたことがある。会社が教育してくれないから新技術が身につかないとか、あとX年無難に勤めれば無事定年だとか、従順だけれども主体性の無い社員が多いことが会社の体質改善を妨げていると感じたからだ。実際特技がない人に本の自習を勧めたり、業務担当を工夫したりもした。一部の特技ある人には退職転職を勧めることもした。ブランドのない個人はこれからは幸せになれないと思ったからだ。その頃或る講演でその話をしたら、聴衆から声があり「それは強者の論理だ。何の特技も能力も無い私のような弱者がこの世の大多数だ。仕事仲間で力を合わせて協力することで何とか私はやっていく」と言われた。私は「協力は大いに結構だが、何の特技もないとは誤解だ。技術力で身を立てることに自信がなくても、小集団のリーダとしては抜群とか、絶対諦めないとか、何か特技があるはず。それを発見して磨くべきだ。どうしても特技が持てない人は、これからの時代には落ちこぼれていく」と応答した。今なら「そういう人はリストラ対象だ」と言ったはずだ。ブランドを磨くには、努力も勿論だが時として何かを犠牲にすることすら必要だ。

 企業と個人のブランドに言及したが、実は今最も欠落しており、しかも欠落が明確に認識されていないし対策も無いのが、日本という国のブランドである。「工業立国」を誇ったブランドは今既に怪しくなっている。そういうお前はこの問題にどう対処するのかと問われれば、まあ私は自分自身と周囲の個人・企業のブランド確立に微力を尽くすこととで、間接的に国のブランド確立にささやかながら貢献することとしよう。   以上