比較政治経済学の二三の論文を読む機会があり、様々な資本主義が対比されることを知った。米国の圧倒的な経済力から、国際化=Globalizationは、米国型経済の普及に近い面がある。しかし学者は、資本主義には「米英型」とRhein川流域の「Rhein型」があり、米国経済だけを考えてはいけないという。これらは自由主義市場経済=Liberal Market Economy=LME、及び調整的市場経済=Coordinated Market Economy=CMEとも呼ぶようだ。
前者は米国が中心で、平等に開かれた市場で成功も失敗も全て個人の責任だとする。後者は独が中心で、個人的災難は社会全体で市場の外で救済する。企業視点では前者は、短期雇用が多く企業内訓練はあまり行われず、必要技術は人の引き抜きで獲得する。株式市場中心に即応性の金融が行われる。後者は企業内訓練に熱心で、研究開発で企業間協力が盛んであり、銀行は忍耐強く長期の資本提供を図る。
前者は米の他、英・加・豪・NZ、後者は独の他に北欧・オランダ・スイス・日本、中間が仏・伊とされている。過去40年間の経済指標を比べると大差なく、どちらが優れているとは言えないそうだ。しかし産業の強弱は異なるという。前者では、転職しても汎用性のある一般的技能が育ち、急進的Innovationに素早く投資する産業、つまりBio・医療工学・情報通信などに強みを持つ。後者は、産業固有・企業固有の技能が育ち、長期投資により漸進的Innovationが進む産業、即ち工作機械・耐久消費財・輸送機械などで強みを発揮するという。
前者=LMEは良いとしても、後者=CMEを一括りにするのは乱暴で、4つに分けるべきだとする学説もある。自由化市場(左)−規制的市場(右)を横軸とし、高福祉国家(下)−低福祉国家(上)を縦軸として、上下左右の4極端と中庸の5つを想定する。@中央を独仏の大陸欧州型=中庸型とし、Aその下側に北欧の社会民主主義型=高福祉型、B中庸型の上側にアジア型=低福祉型、C規制的市場側の右端に南欧型・地中海型=規制市場型を配置する。(0)左端のLME=米英型=自由市場型と併せて5種類ということだ。
日本は米英型ほど資本の論理で割り切れないという意味で大陸欧州型に近いが、大陸欧州ほど高税率にもできないため予算不足で、福祉が限定されるアジア型に位置付けられる。国家に金が無い分、従来は各企業が福祉にも教育にも力を入れて来た。だから企業は大学の教育にあまり期待せず、転職が少ないことを前提に優れた素材を一括採用して教育訓練する。日本型の終身・長期雇用は蚕食されつつも依然主流ではある。
米英など自由市場型の国では、労働市場の流動化と規制緩和が進んだので、企業による教育は意味を失った。一方で小さい政府指向で公的教育への支出も抑制され、米州立大学でも公費が十数%になっている。従って1990年代から学費が急増した。米Columbia大学の年間授業料は5百万円を超える。因みに東大は50万円だ。教育は自己責任になり、学資ローンが普及した。それを乗り越えた学生は高賃金の職に就き、賃金格差が広がった。大学間格差も広がり、有名校は豊富な資金を活用して圧倒的な競争力を得た。大陸欧州や北欧では逆に、高税率(消費税20-25%)を背景に高等教育の無償化・低廉化が進み、公的資金での教育が中心になっている。
日本型雇用が前提だった一括採用と社内教育を、国際競争激化と日本型雇用の蚕食で、企業が段々負い切れなくなってきた結果、正社員は早期に囲い込み長期雇用を前提に社内教育を進める一方で、教育の手を抜くことができる非正規労働者が増えており、2017年には37%、15-24歳に限れば47%に達したという。経団連が就活ルールから下りた結果、就活が実質的に自由化に向かうと、教育と賃金の格差が拡大すると懸念されている。
上記で抜けているのが、中国・ロシアなどの全体主義的資本主義だと私は思う。上記の様々な民主主義的資本主義に比べて効率が良い。天安門事件への批判に対し中国の広報官は、「対応が正しかったことは、その後30年の経済発展が証明している」と言い切った。自由は無いが経済発展するのと、自由な経済停滞とどちらか選べとなると難しい。今の日本人は自由を選ぶだろうが、後進国や終戦直後の日本人なら経済を選ぶはずだ。以上