商売柄毎日「中小企業」に接している。中小企業とは何かについて、中小企業基本法は次のように定義している。
「中小企業」 | うち「小規模企業」 | ||
資本金 And | 従業員数 | ||
鉱工業・運送業 | 1億円以下 | 300人以下 | 20人以下 |
卸売業 | 30百万円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
小売業・サービス業 | 10百万円以下 | 50人以下 | 5人以下 |
全国の1次産業を除く5百万企業、1.7百万株式会社の99%以上は中小企業で、企業の9割、株式会社の7割は小規模企業である。企業数で一番多かった小売業はかなり減少したが、まだ22%を占める。代わってトップに立ったサービス業が25%だ。飲食店が15%、製造業が12%、建設業が11%と続く。但し我が多摩地方では下請型の製造業の割合がずっと多い。 全国の非1次産業の企業で45百万人が働いているが、2割半の小規模企業を含め7割が中小企業だ。株式会社で見ても全国非1次産業の36百万人のうち、1割の小規模企業を含め6割が中小企業である。中小企業が我が国において非常に大きな存在であることが分かる。中小企業を支援する政府・自治体の施策が手厚いのも、この存在感と票数を考えれば当然であろう。
しかしその中小企業が今苦労している。経済の皺寄せを被りやすい中小企業だが今回は構造変革に煽られてもいる。一番苦しいのが板金や切削加工など安価な製造を中国に持っていかれた下請型中小企業だ。ところがそういう苦衷の企業は我々の商売の前に現れない。我々の身近に見える中小企業は極めて元気で頼もしい。二分化しているということだ。
米国のVenture Capitalitsと長年付き合って、私は彼らの専門性に一目も二目も置いてきた。彼らと話すと業界動向が一番正確に分かった。「業界動向を教えて」と行っても全く相手にされないが、私の専門分野で業界談義を吹きかけてGive & Takeの議論をしたものだ。彼らはその専門分野にしか投資しない。今の職場で最初に悩んだのは、そういう専門分野なしでどうやって商売するかであった。そのうちに分かってきた。日本のベンチャ投資会社の責任者の多くは、成功報酬のあまりないサラリーマンで本質的には株屋であり、専門分野を持たぬ(に拘泥せぬ)Generalistである。合議制で投資可否を決める所まで良くも悪くも日本的である。
従って我々の投資先は分野もレベルも多様だ。私が急伸するクレープ屋への投資を検討したと聞いたら米国の友人は笑うだろう。いや私はそれを非常に楽しんでいるのだが。水銀灯安定器の電子化に成功したという元小学校教員の女社長が投資を募ったので、なぜ成功できて真似されないのかを問うが答はなく、売上見込みや貸借対照表を要求したら作成中だと言った(投資は諦めた)。直前の第三者増資の株価実績が5万円だから今回は5.5万円で投資して欲しいという若き社長から貰った資料によれば、5万円は10株だけ縁者に最近買ってもらっただけだった。文科系だが8年間独学で電気屋の私が思いもつかなかったモータを開発した社長に会った。23歳で起業して10年という松尾和子似の長身の社長は食べ物で大を成す夢を語った。廃ガス中の塩素を水に吸わせるというから「塩酸ができますね」と言ったら「とんでもない。塩素イオン水です」と色をなした文科系の社長が居た。長銀出身の社長はキャッシュフロー計算が怪しかった。親父の会社からスピンオフして新会社を設立した二代目は、目一杯の背伸びが目立った。XMLの入出力ソフトで伸長を狙うのは白髪の技術社長だ。
この商売に入らなかったら絶対に出会うことがなかった極めて多様な起業会社であり社長像だ。その共通項は旺盛でしぶとい事業意欲だ。投資対象としての適否とは別にそのエネルギーに共感と愛情を覚える。日本人も日本経済も底辺においてふつふつと煮えたぎる勢がある。日本の将来はこのような21世紀型の中小企業にあるのではないか。それらを日本型ベンチャ企業として育成することにいささかでも貢献できれば嬉しい。 以上