6月18日に「うつせみScience コロナ禍方程式」を配信させて頂き、
R* = {1 - (V1 x E1 + V2 x E2) - K} x Ro x P
を提示した。前便を前提とせず、今回は東京都の数値を当て嵌めてみよう。まず式の変数を再掲する。Roはウイルス本来の感染力で、対策皆無の場合に1人の感染者が何人に伝染させるかという「基本再生産数」。武漢株でRo=2.5、δ株でRo=5とする。実際には外出制限やマスクなどで抑制する政策が施されるからRoほどには伝染しない。それを抑制計数Pで表現する。無施策でP=100%、完全都市封鎖でP=0%。普通はP=50%辺りだ。R*は「実効再生産数」で実際には何人に伝染するかを表す。{}の中では耐性を持つ人の人口比を引算している。完治者の人口比Kは、現状では充分小さいので以下無視する。1回又は2回のワクチン接種者の人口比がV1とV2で、ワクチンの効果・効き目がE1とE2だ。武漢株に対してE2=95%、δ株に対してE2=0.75 x 95%= 71%、E1=0.8 x E2 と簡単化すれば、
R* = {1 - E2 x (0.8 x V1 + V2)} x Ro x P
人口14M(M=百万)の東京都の9月12日のワクチン接種者は、1回だけの人が1.6Mで人口比V1=11.4%、2回済んだ人が6.4MでV2=45.7%だった。TVで日本全国のV1+V2 が64.4%と報道していたのより大分小さいが、TVの数値の分母は12歳以上の人口ではないかと推察している。ワクチン効果を差し引いて、感染し得る人の人口比は、
武漢株で {1-95% x (0.8 x 11.4% + 45.7%)} = 47.9%
δ株で {1-71% x (0.8 x 11.4% + 45.7%)} = 61.1%
なお後述の7/25時点ではワクチン接種率が今よりずっと低くて
δ株で {1-71% x (0.8 x 7.6% + 30.5%)} = 74.0% だった。
(1)δ株無かりせば、少しの努力で感染は終息のはずだった。
実効再生産数R*が1未満なら、新規感染者は段々減り感染は収まる。
R* = (47.9% or 61.1%) x Ro x P だから、
武漢株で 47.9% x 2.5 x P = 1.20 x P < 1 P < 1/1.20 = 0.83
δ株で 61.1% x 5.0 x P = 3.06 x P < 1 P < 1/3.06 = 0.33
武漢株ならP<0.83で、あまり厳しく抑制しなくても今頃は楽勝だったが、δ株の出現でP<0.33で相当厳しく抑制が必要になった。
(2)第五波の急増と急減の謎。
東京都の第五波で、新規感染者数の過去7日間平均が、7/25からの2週間で2.28倍に急増した。しかし8/30からの2週間では0.36倍に急減した。実効再生産数R*は、新規感染者数の週間増減率で近似できるから、2週間の増減率の平方根が実効再生産数R*だ。なお (74.0%)x5.0=3.70 なので
7/25から2週間で R* = 2.28の平方根 = 1.51 = 3.70 x P P = 0.41
8/30から2週間で R* = 0.36の平方根 = 0.60 = 3.06 x P P = 0.20
δ株になったため、P=0.41でも感染は急拡大したが、P=0.20に抑制したおかげで急減に至ったことになる。感染激減の理由の第1は@ワクチンの普及だ。もしワクチン接種率が7/25のままだったら、P=0.60/3.70=0.16の抑制が必要だった。抑制計数P=0.20で済んだのはワクチン接種が進んだお蔭だ。抑制計数Pが0.41から0.20に半減した原因としては、A人流がお盆や夏休みで増えた後で35%減ったというデータがある。B医療崩壊のニュースを恐れた抑制効果と、C涼しくなって換気が進んだことだろう。
(3)δ株では、現在のワクチンでは集団免疫は不可能。
ワクチン接種人口比V2が大きくなれば、抑制措置無しP=100%でも実効再生産数Ro=1となり感染は横這いになるという集団免疫だ。武漢株なら
R* = 1 = (1 - V2 x E2) x Ro = (1 - V2 x 95%) x 2.5 V2 = 63%
人口比63%が接種完了すれば、集団免疫になるはずだった。δ株では
R* = 1 = (1 - V2 x 71%) x 5.0 V2>100%になってしまう。
(4)ワクチンも抑制措置も、個人より公衆感染の抑制に効果。
ワクチンもマスクなどの抑制措置も、個人の身を守る効果は限定的だ。マスクをしても空中のウイルスの1/3は吸ってしまう。しかし抑制計数Pが少し減少すると指数関数的に感染者が減り、結果的に個人も助かる。以上