放送界の危機
1991年開始の世界初のHDTV(高精細)放送Analog HiVisionを継承して、2000年12月から始まったBS Digital放送は、前年から米DirecTVが別衛星(W119)で始めたのに次ぐ世界で2番目の衛星HDTV(高精細)Digital放送だ。但し世界のDigital放送はSDTV(標準精細)が主流で、米国ではDirecTVが1994年6月から、日本ではPerfecTVが1996年10月から開始している。
さてそのBS Digital受像機の普及が思わしくない。千日で千万台普及が業界目標だった。平均すれば毎日1万台、毎月30万台ということだ。そりゃ無理でしょう、と私も思った。でもNHKを初め業界の注力度は目を見張るものがあったから、半分いくかな、行けば大成功だな、と思っていた。「HDTVなんて売れるものか、SDTV受像機の画像処理技術の発達で、36インチ程度じゃHDTVかSDTVか区別がつかない」と主張するWink社会長に、いや日本は違うよ、番組にも宣伝広報にも皆注力しているから業界目標の何割かは行けると思うよ、と言って来た。この賭けに負けたらしい。
最近ふとAnalog HiVision受像機の月別の売れ行きグラフを睨んでみた。冬季Olympicの1998年は業界挙げて「Digital放送時代にも使えるHiVision」という嘘ではないが本当でもない宣伝で、年末以外でも月間2万台売った。1999年と2000年にはさすがに買い控えで月間1万台を切った。BS Digital時代に入り、2000年12月には16万台(Tuner 9万 テレビ 7万)売れ、売り切れ状態を呈した。ところが年が明けてから月2万台ペースに急減し、ボーナス月の7月でも3万台に留まった。それでも累計約70万台売れた。10年掛かって80万台普及したAnalog HiVisionに比べて立派じゃないの、千日千万台ペースの半分くらいの累計にはなっているようだし、とついこの間まで(月別動向を知らないで)私は思っていた。
さらに次の注目すべき点がある。
1.Analog HiVisionの受信機普及よりも、その放送をSDTVで受信する受像機の普及の方が1.4倍多かった。高精細・高価では売れない証拠だ。
2.昨年末と年始には、Analog受像機に接続するDigital Tunerの方が圧倒的に多く売れたが、5月以降は組み込みテレビの方が1.5倍多い。
モノズキによる年末年始のピークを除けば、月2万台のペースはAnalog HiVision時代から一貫しており、20-30万円のテレビの購入層の固有値ではないか。つまり千日千万台の半分どころか1/10 - 1/15のペースと考えざるを得ない。これは大変なことで、千日経っても初期ピークと合わせて百数十万台だ。BS各放送局の事業計画を根本的に見直す必要がある。
Tunerで放送内容と双方向性を楽しもうという人は年末年始のモノズキ層に限られ、BS Digitalの主購買層は今やAnalog HiVisionと同じく電気店に勧められて高価なテレビを買う富裕層に限られつつある。BS AnalogがNHK集金に応じた人だけで10百万、実数は恐らく15百万、Sky PerfecTVのICカード発行枚数が2.8百万と比べて、BS Digitalはテレビは勿論Tuner(実売 \55 k)すら高過ぎると見なければなるまい。コスト高の主因は勿論HDTV、副原因は双方向用の仕様BMLだと言われている。
来年開始予定のCS110衛星放送、2003年に東名阪で開始の地上波Digitalもほぼ同じ仕様(コスト)で、BSの不振を心配しつつも護送船団は進んでいる。背負いきれない大きなお荷物にならないか心配だ。(1)CS110上で放送、(2)ディスク録画、(3)インターネット接続、の三位一体を狙うePFプロジェクトは、狙いは真に良いのだがコスト高のBS互換が重荷である。
BSの現状から、地上波Digitalでは日本方式の特徴である移動受信、即ち携帯テレビに関心が集まっている。携帯ならHDTVでなくてよいから安くでき普及するだろうという期待である。携帯テレビの需要はそれほどないと私は賭ける。「据え置き型携帯テレビ」が普及するのではないか。
世界の方向(欧米、最近韓国も)は、安い受像機とSky PerfecTV流の多チャネル化である。寡占秩序を守りたい日本だけが独りDigital技術の伝送能力を多チャネルではなく高品質画像に振り向け、「技術が安くしてくれるよ」と高価な受像機を市場に持ち込んだ。これが誤りで、日本の放送界が危機に陥るのではないかと、今私は危惧している。 以上