2030年代に原発をゼロにするという目標を閣議決定しなかったことが今話題になっている。野田首相の頭の中は多分こうなっているのだろう。「原発発電量を全体の15%に絞る辺りが落とし所と思っていたが、ゼロを望む世論が強い。総選挙はどうせ負けるから世論受けは必ずしも狙わないが、ゼロと言わないと総選挙を恐れる党員が更に離脱する懼れがある。だからゼロとも言えて将来ノンゼロにも出来るようにしておきたい。」 ただ日和見をせずゼロの閣議決定をしても結果に大差はなかった。閣議決定を避けたのは作戦ミスだと思う。一方首相官邸前で毎週金曜日に気勢を上げる原発ゼロ運動は、原発事故を恐れる一般市民が多い。だがリーダはそれほど単純ではなく多分次の考えだろう。「産官学の原子力村の住人が群がる利権を突き崩して平安な生活を得る好機だ。成長より平安だ。」
福島の事故で学んだ今、再びの原発事故で放射能障害に遭う確率は非常に小さいと私は思っている。福島の事故ですら放射能障害は1件も報告されておらず、今後も恐らく一般市民には無いはずだ。今後原発稼働で放射能障害が出る確率は、(1)再び未曾有の天災が原発を襲い、(2)福島の前例に学ばず再び処置を誤って放射能が放出され、(3)逃げ遅れ、(4)浴びた放射能で障害を生じる。という4つの小さい確率の積だからだ。だから私は、メリットがあれば原発の塀の外に住むことも厭わない。
一方では、今日本はなりふり構わず産業振興をしないと大変なことになると私は思っている。国家財政が破綻前夜にあるからだ。国民老若男女から1人当たり1千万円を取り立てて公的債務を埋めるのは無理としても、せめて借金をこれ以上増やさぬだけでも大変だ。つまり(a)歳出を削るか、(b)増税(消費税なら二十数%に)するか、(c)産業振興で自然増収を狙うか、それらが出来ないと(d)突然の破綻(超インフレを含む)は必至だ。
今年度予算の歳入歳出は90.3兆円だが、税収は42.3兆円しかなく、国債44.2兆円で補っている。国債の償還・利子払いに21.9兆円と、地方交付税交付金に16.6兆円は、言わば歳入からの天引きだから、90.3-21.9-16.6=51.8兆円しか施策に使うことが出来ない。そのうち社会保障費が26.4兆円で半分以上だ。普通の会社の経費だと人件費の割合が大きいのだが、国家公務員58万人(うち自衛隊25万人)の人件費は5.9兆円に過ぎない。実質的に国庫からの支出で賄っている公立小中学校教職員人件費も6.3兆円だ。破綻してしまえば話は別だが、選挙大敗を覚悟しても歳出の大幅削減は困難を極める。これは鳴り物入りの「事業仕訳」で実証済みだ。
増税も、党を割ってまでやっと消費税10%まで目途は付けたが、恐らく二十数%にまで上げなければなるまい。その困難は明白である。つまり(a)(b)は当然必須だが、(d)破綻を避ける起死回生策としては期待出来ない。とすると今はなりふり構わず(c)産業振興に注力する他はない。現状は企業を海外に追い出して他国の経済発展に資するような条件になっているのを、少しでも改善しなければならない。それでも原発再稼働に反対し原発をゼロにするのか、という問題だ。(a)(b)(d)のどれをとっても、雇用、年金、健保、幼稚園・保育所などが怪しくなる。節電と原発を天秤に掛けては間違える。「成長より平安」という命題も誤りだ。「成長無くして平安無し」だ。今でも企業は成長しており成長力を持っている。ただ高い法人税、円高、自由貿易の遅れ、電力不安・高騰、雇用硬直化、などの愚かな政策が、企業活動を海外に追い出す「奨励策」になっている。
原発で今後更に平安が犯される確率よりも、国家財政破綻または破綻回避の緊急処置で平安が壊される確率の方が1桁も2桁も高い。だが世論はそのことを知らない。政治家もメディアも語らない。無知で語れない人も多かろうが、語ると落選したり視聴率・購読率が落ちるからだろう。増税反対、TPP反対、原発反対を叫んでいれば当面は人気を稼げる。
政治家は気の毒だ。何度か私は職を賭して仕事をしたが、それは例えクビになってもどこかで同程度の仕事は出来るだろうという自信があったからだと思う。議員は落選したら最後、韓国で議員になることも出来ない。だから口で何と言おうと、当選が第一、国政は二の次になる。 以上