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うつせみ
2013年 2月15日
          デフレの経済理論

 鶴瓶が、ローマのスペイン広場の階段を太った人が上るのを見て「人は太ったせいで膝が痛くなるのか、膝が痛いせいで太るのか」と悩む関節痛の薬のCMがある。今「デフレだから不況なのか、不況だからデフレなのか」が経済学者の間でも、政府と日銀の間でも甲論乙駁だと知った。

 年率 1%のデフレの下では、今日金利ゼロで1万円借りて1年後に返済する時には、購買力が1%増加し値打ちが増した1万円を返済するから、「名目金利」はゼロでも「実効金利」は1%と認識される。負債を持つ人は返済が年々難しくなる。だから需要を抑制し不況を招く。逆に不況は需要不足から価格低下・デフレを招く。肥満・膝痛と同様にデフレ・不況もどちらも原因にも結果にもなる。しかし今の日本ではどちらが支配的かによって対策が異なり、大議論となる。実は世界の経済学の大勢と日本の大勢が真逆であることを知った。仮に「国際派」「国粋派」と呼ぶことにする。

 国際派は次のように主張する。デフレは通貨の問題だから、日銀が金融緩和すれば退治できる。すると不況は改善され日本経済は復活する。それにも拘わらず日銀が本気で金融緩和しないのは怪しからん。高級幹部は決まった月給があるからデフレは大歓迎だろうが、不況に悩む庶民の苦しみを知れ、などと日銀を非難する。先日著書を読んだYale大学の浜田名誉教授は国際派で、安倍氏が幹事長の頃からブレインを務めて来た。今回アベノミックスの第一の矢「大胆な金融政策」はここから来ており、「金融政策では日本のデフレは解消できない」と抵抗する日銀を手篭めにしてインフレ目標を1月22日に掲げさせた。日本の新聞にも度々「インフレ目標を掲げよ」と寄稿し、今安倍政権を絶賛している米のNobel賞Princeton大教授Paul Krugmanは国際派の拠り所だ。彼は「貨幣数量説=Quantity Theory of Money=QTM」を採る。通貨量増→金利減・デフレ解消・円安→不況脱出 という理論だ。国粋派もゼロ金利でなければQTMに賛同する人は多いが、ゼロ金利の日本では上記矢印の出発点から成り立たない。ゼロ金利で金利操作も通貨量操作も出来ないことを「流動性の罠」と呼ぶ。

 そこでKrugmanは1998年に「流動性の罠」に関する論文を発表した。通貨量を増しても現在の金利はゼロ以下に操作出来ないが、「将来はインフレになる」と国民に思わせれば将来はQTMが成り立つと期待され、流動性の罠からもデフレからも不況からも脱出できるとした。その将来はインフレになると思わせる手段として、現在の金融緩和が有効だとした。浜田教授の進言で安倍政権はこの路線を採っており、出だし順調と見える。

 国粋派はQTMを非難する。(1)過去二十年のゼロ金利時代に、通貨量増分と物価増分・GDP増分の相関は全く無い。(2)ゼロ金利下で将来のQTM予想は、定性論としては面白いが定量論としては全く弱い。(3)通貨量は、物価と失業率を維持するために受動的に決まるものだ。但し国粋派の共通認識はここまでで、不況の原因に関しては百家争鳴だ。日銀のHPの奥の方に論文があった。2011年11月に日銀が開催した国際研究会議の結論をまとめて2012年6月に Chronic Deflation in Japanという論文を発表した。

 www.boj.or.jp/en/research/wps_rev/wps_2012/data/wp12e06.pdf

「将来の成長予測」が弱い→需要減→不況→デフレ という論旨だが、成長予測が低い理由は、会議参加の学者の意見が様々だ。人口減・高齢化で潜在成長力低下。従って自然金利(経済環境で決まる仮想金利)の低下。リスクを避けて貸し出ししない銀行。流通業界の規制。新興国経済の台頭。政府が2001年と2009年にデフレ宣言をして市況を冷やした。など。

 東大教授吉川洋氏の本の論旨は次のように明快だった。浜田教授の著書は主張だけだったが、吉川教授の本は反対論も丁寧に解説してあった。

   デフレーション 吉川洋 日経出版 2013/1/18

経済の国際化→日本の雇用形態が崩壊→ボーナス減・非正規とパート増→世界で日本だけが一人当たり名目賃金が減少→需要減→不況→デフレ。

 国際派と国粋派の乖離の原因はゼロ金利との距離の差かも知れない。安倍政権は「将来のインフレ予想」に成功しつつあり、株と不動産は動き始めたようだ。買った時間の中で成長戦略が始動するのを期待しよう。以上