新型コロナウイルス変異株で「インド株」と呼ばれていたものを、国名を嫌うWHOがδ株という正式名称にした。δ株にも3種あるが、その2番目のB.1.167.2が感染力が強いために主流化しつつある。Spikeの遺伝子の、武漢株から見てL452R(452番目のアミノ酸がLでなくRに)および T478Kという2か所の変異が特徴的で、伝染力は2倍と言われる。またワクチンの種類にも依るがワクチンで出来た免疫抗体、または感染して全快した人の抗体を或る程度回避する力があると恐れられている。
変異株では、N501Yを特徴とする「英国株」=「α株」が、感染力1.3倍で世界中に広まったが、抗体回避はない。それをδ株が置換しつつある。武漢株に対比してα株は重症化率6割増と言われるが、δ株は重症化率に有意差は無いという。但し入院率はα株の2倍という下記情報もある。
6月22日のNature Onlineは"Delta coronavirus variants: Scientists brace(気を引き締める) for impact"と題して次のように伝えている。
英国で最初にδ株の患者が出た4月中旬には、英国はα株主体のコロナ禍を過ぎ、規制解除が検討されていた。数か月続いた規制と世界の先頭を行くAstraZenecaワクチンの接種で、感染者数・入院者数・死亡者数が急減していた。しかしδ株が蔓延して英国に第3波が起こり、6月21日に予定していた規制解除を1か月延期せざるを得なくなった。
δ株の伝染力はα株の6割増と言われている。加えて抗体回避が見られる。英当局の発表では、AstraZenecaのワクチンを1回接種した場合のδ株に対する効果は33%(α株で50%)、2回接種で60%(α株で66%)であった。Pfizerのワクチンだと1回目で35%、2回接種で88%(α株で93%)だった。EnglandとScotlandの実績では、入院が必要になる割合はα株に対してδ株は2倍だった。ワクチンを打っていない若者にδ株感染が多いとも。
東京都と同程度の人口を持つIsraelは、Pfizerのワクチンが国民の8割に行き渡ったおかげで、毎日の感染者数は10名以下という素晴らしい状態だったが、δ株が入って来たおかげで急に百名を超え、室内のマスク要求が復活したという(東京都の感染者数はα株主体で昨今数百名)。
δ株は米国でも、特に中西部・東南部で急速に広まっているという。就中ワクチン接種が遅れている地方=Trump前大統領支持地方が危ない。
δ株は、人口の1%もワクチンを打っていない13億人のアフリカに感染者数の急増を招いていると、6月22日のNew York Timesはいう。南アでは2週間で感染者数が倍増した。Kenyaはインドと同じことになりそうだという。専門家が集会の自粛を求めている中でKenyatta大統領は、マスクをしていない大衆多数の政治集会を開いたところ、早速その地方で感染者数・死亡者数の急増が起こった。Ugandaではδ株が感染者の97%を占め、Zambiaでも77%と報道されている。
東南アジアは今迄欧米に比べてコロナ禍の被害は少なかったが、δ株の出現とワクチンの遅れで感染者数の増加が起こり、欧米を凌駕するようになってきたという。特にIndonesia、Myanmar、Philippinesが大波になっているそうだ。Jakartaでは、病院が再び満員となり、人工呼吸器も不足し、医療従事者に再び死者が出ているという。報道情報は以上だ。
世界では所得がHigh/Upper/Middleの国がワクチンの85%を買い占め、Lowの国には0.3%しか届いていない。だから低所得国でウイルスが猛威を振るい、ウイルスが沢山生きていれば比例して変異株が沢山発生し、そのほとんどは脅威ではないが稀にはδ株のように、従来株よりも格段に恐ろしい株が出現する。最近既にδ+ 株というのが印・英・米で出現したという。δ+β(南ア)の遺伝子を持ち、δより感染力が強い。WHOのCovaxプロジェクトで、先進国が発展途上国にワクチンを回すことは、先進国のためにもなる。日本ではOxford大が開発しAstraZeneca社が商品化したワクチンの国産化(充填が主体)を第一三共が始めたが、相対的に効きが悪く稀に血栓症の副作用があるので持て余した。中国が押し付ける中国ワクチンを嫌がった台湾が幸い喜んで引き取ってくれる。後進国にも出荷していくことになった。一方政府はPfizer/Modernaと増量を折衝中だ。 以上