同窓会館で2月に行われた講演会の講演記事が最近の同窓会誌に載っていた。会誌には時々素晴らしい記事が掲載されるが、これも感動モノだったので、記事を1割に圧縮して主要点をご紹介したい。筆者=講演者は藤崎一郎氏、1947年生、外交官の父に従ってSeattleの中学校。慶応大経済在学中に外交官試験に合格し慶応を中退して外務省へ。外務審議官、在米特命全権大使。退官後に上智大・慶応大教授、現在は中曽根世界平和研理事長。表題は「世界の見方---北朝鮮、中国、米国」だった。
外交は、@相手国の少なくとも30年、場合により百〜二百年の歴史を知り、A相手が何を望み怖れているか心理を知る、ことが大事だという。
北朝鮮は、世襲3代目の金正恩が全ての権力・財力・軍事力を握り、エリート層に権限はない。24M人(M=百万)の国民は食うや食わず。筆者によれば、北朝鮮の心理の第一は「体制維持」。中国もベトナムも改革開放ができたが、周辺に強大な成功国がなく開放しても自国に不利な情報流入は抑制可能だった点が北朝鮮とは異なる。中国の指導者は先代の指導者を批判して新政策を採って来たが、血統ゆえにトップになった金正恩にはそれが出来ない。故に戦略の転換が難しいという評価だ。
北朝鮮には3つの選択肢があるという。1つ目は、核を放棄し制裁を解いて貰い国の発展を狙う。しかし欧米中韓日から情報も入って来て、国民に現状対比の不満が生じる。核放棄したLibiaでは、国民からQaddafi大佐独裁への反乱が起きた時、国際社会が反乱を支援し、2011年にQaddafi大佐は殺害された。この例を、北朝鮮は他山の石としているに違いないと。2つ目は、核戦力を行使して国威高揚を図る道だが、米国が報復して核攻撃をしてくる。3つ目は現状維持だが、制裁が続くからジリ貧になる。筆者はここで聴衆に、あなたが金正恩だったらどれを選択しますかと問うたら、聴衆の大部分は現状維持しかないと答えたという。北朝鮮は時々気を引くこともあるが、本質的には現状維持路線を変えられないという。
中国は、ケ小平の「社会主義市場経済」で成功し、生活は年々豊かになっているように見える。しかし国民の大多数の非エリート層は、豊かさに満足しつつも格差に不満を持つという。最優先課題は中国でも体制維持なので、幹部の腐敗を摘発し、一般国民向けには福祉、医療、環境に注力し、あらゆる情報網とデジタル技術で国民への監視を徹底していると。
これらに加えて、大国を目指すNationalismの高揚で体制の安定化を狙っているが、これが諸外国の警戒を呼んでいる。ケ小平は、中国が本当に強くなるまでは、爪や牙を見せるなと戒めたが、最近は強圧外交になり、諸外国が警戒して中国外交は躓きを見せているという。
米国では、@白人の比率減少(90%/1960-->60%/2020)、A移民流入で外国生まれの人口増(8.4M/1965-->45M/2015)、B工場の海外シフトで製造業労働人口減(18M/1998-->11M/2021)が起こっていると。これらから生じる白人労働者の不満を票数に活かしたTrump氏が2016年大統領選に勝った。2020年の大統領選では、Biden氏が81M票、Trump氏が74M票を得たが、約三千の郡=Countyで見るとBiden氏が勝った郡は1/6しかなかったという。Biden氏は538人の選挙人のうち306人を得たが、個々の州で見ると辛勝も多く、「(投票数と選挙人数では)大差で(個々の選挙区では)辛勝」という評価だという。因みに過去の民主党候補では、2000年のAl Goreも2016年のHillary Clintonも獲得投票数では勝って選挙人数で負けた。このところ民主党は都市部で大勝し、地方で勝負が決まっている。
米国は大統領が変る度に外交戦略も変わる。筆者は、米大統領は世界のDisk Jockeyだと面白いことを言う。Bush Jr.が激しいRockを掛けた後、ObamaがBluesを掛け、Trumpが独りでGoGoを踊り、BidenがWaltzを掛けて一緒に踊ろうよと言っていると。日本は米国の音楽を耳に入れつつ、自分なりにアレンジしたステップを踏む必要があると言っている。安倍晋三前首相はTrump前大統領とこの点で非常に上手くやったと評価している。
北朝鮮も中国も、国の第一目標が「現体制維持」であるのは悲しいが、民主主義国でも現体制維持や再選に重点がある場合も往々にある。 以上