財務省は1月24日に2012暦年の貿易統計、2月8日に国際収支を発表した。貿易収支が史上最悪の大赤字になったことが大きく報道された。貿易収支は貿易統計では -6.93兆円、国際収支では -5.81兆円の赤字と発表された。その差は、算入時期が前者では通関、後者では所有権移転、輸入額が前者ではCIF、後者ではFOB(輸出は共にFOB)だからだ。
貿易統計の発表では、2012暦年の輸出額は前年比 -2.7%の 63.74兆円、輸入は前年比 +3.8%の 70.67兆円、差引 6.9兆円の貿易赤字は、第2次石油危機の1980年に 2.61兆円の赤字記録を出してから32年ぶりの赤字記録更新となった。輸入増の主因はLNG=液化天然ガスの輸入増、輸出減の主因は船舶、半導体等電子部品の輸出減と発表された。自動車は2011年に比し欧州向けと中国アジア向けの減少を米国向けが補い総計は伸びた。
報道機関は、輸出立国でやってきた日本経済が変調を来たしたと大きく報道した。しかし各報道機関が世論に迎合して盛り上げた原発ゼロ運動が主因であることは小さく扱った。代わりにテレビや液晶の輸出が止まり、スマホ・タブレットの輸入が主因であるかの如く取り上げた。電機業界の不甲斐なさは追及されなければならないが、産業界の六重苦を招いた民主政権の産業敵視政策も同時に取り上げなければバランスを欠く。
一方、2012暦年の国際収支の発表は次のようであった。
国際収支(必ず 0) =経常収支+4.70兆円+資本収支-8.51兆円
+外貨準備増+3.05兆円+誤差+0.76兆円
経常収支+4.70兆円=貿易収支-5.81兆円+サービス収支-2.61兆円
+所得収支+14.26兆円+経常移転収支-1.14兆円
国際収支を私は理解出来ていなかった。国際収支表という複式簿記(資産減を貸方、資産増を借方)は経済学の試験によく出るらしい。輸出は資産減(貸方・貿易収支)と金融資産増(借方・資本収支)に分けられる。複式簿記を一つの方程式で表現するから判り難くなるのだが、輸出をプラスに勘定するので左右逆の金融資産増はマイナスで勘定する。途上国への無償資金援助などは「移転」という架空のモノを輸入したのと同様に、経常移転増(借方・経常移転収支→マイナス)と金融資産減(貸方・資本収支→プラス)に分けられる。このように左右両方に計上する複式簿記を一つの方程式で「貸方-借方」に換算すれば総計は必ずゼロになる。
輸出製造業が、日本を去り中国に工場を建てると、輸出が減少し、配当で所得収支が、特許料などでサービス収支が改善する。モノ作りが不得意となった先進国では、貿易収支の赤字を所得収支で埋める形になり易い。サービス収支は旅行収支が大半を占めるので、外国旅行が盛んな先進国では赤字になり易いが、特許収入などはそれを補う。日本もサービス収支は赤字で、2011-2012年は貿易収支も赤字になったが、所得収支が年々増加して十数兆円の黒字のため経常収支は黒字を保つ。日本も輸出立国から投資立国に変わったという見方もある。 2010年末の対外直接投資累積額のGDP比を見ると、英75%、独43%、米33%、に対して日本は15%であり、まだ投資立国の余地は大きい。但し投資立国は国内に雇用を生まない。
では貿易・経常収支が赤字化するとどんな影響があるのか。輸出ゼロで輸入だけの国を想像すればよい。(1)外貨が払底し輸入や海外投資が出来ない。または外資借入が必要になる。(2)輸入に必要な外貨を購入する国内通貨が不足する。金利が上昇し、国債消化や国内投資に支障が出る。但し安倍政権は日銀に国債を購入させて通貨を増やすと言っている。(3)国内通貨で外貨を買うから国内通貨が安くなる。但し安倍政権は円安は大歓迎としている。(4)国債消化のため、あるいは外貨獲得のため、国債の海外保有率が増す。通貨安を狙うHedge Fundなどに攻撃され易くなる。
結論として、日本は貿易収支は赤字になっても経常収支はまだ黒字だから、直ちに心配することはない。しかし余裕が減少したと捉える必要がある。それ以上に大事な点は、貿易赤字は、製造業の奮起を促す警告であるだけでなく、製造業を疎かにしてはいけないという選挙民と政治への警告だということだ。昨今の報道は後者の視点を欠いている。 以上