日経BP 2月17日号に、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長のインタビュー記事があった。日頃は読み飛ばす部分なのだが、今回はその内容に感心して精読した。要点をご紹介しよう。
APUは、京都の立命館が別府の山の上に2000年に創設した国際大学だ。教員の半数は外国籍で、数千人の学生も半数弱は約80ヶ国からの留学生(但し「国際学生」vs「国内学生」と呼ぶ)、学部3・4年の専門学科は日本語と英語で学ぶ。アジア太平洋学部と国際経営学部の2学部がある。偏差値は法政大とほぼ同等か。出口氏(1948-)は、京大法学部卒、日本生命で企画畑を歩き、英現法社長・国際業務部長。2006年に退職してライフネット生命保険を創立、社長・会長を経て現職。
面白いと思った出口氏の主張は次のようであった。私は大賛成だ。
・日本はマズイ状態にある。しかし多くの人はマズイと思っていない。世界の購買力平価のGDPのシェアで日本は、1991年に9%、今は4%。1989年の世界の時価総額トップ20社のうち14社は日本企業だったが、今はゼロ。平成の30年間(1989-2018)に日本のGDP成長率は年1%だったが、正社員の年間労働時間は約20百時間で横這い。同時期に独仏は13-14百時間で2%伸びている。日本の労働生産性は先進国の中で最下位。
・社会の労働生産性と博士号所有者数は比例すると、関西学院大の村田治学長の論文にある。アイディア勝負の時代だから、発想・知恵が必要。未だに日本経済はモノ作りが一番大切だと説く人が居る。
・製造業が経済の中心だった時代は終わった。今は労働者のわずか16%が製造業。GAFA(Google-Apple-Facebook-Amazon)の時代だ。
・今成長産業を生み出すのは「女性」「多様性」「高学歴」。日本はこの3点全てで逆方向を向いているから伸びない。女性登用の比率を決めておくQuarter制が必要。世界経済Forumによれば、男女格差の少ない順番で、日本は153国中121位。女性の地位が低い国では新産業は生まれない。ラグビー・ワールドカップでは、多様性が無いと日本人だけでは勝てなかった。製造業では学卒以上はわずか4割で低学歴産業だった。今は4割ではやっていけない産業が伸びている。
・企業の従来の新卒採用は、偏差値が高く、素直で我慢強く、協調性があり上司に従順な新卒を採用。それは低学歴製造業向け。今は違うはず。
・OECD平均の大学進学率は60%なのに、日本では53%。しかも日本の大学生は勉強しない。企業が採用の際に成績を重視しないから。或る米人の曰く、「Harvard出身でも成績が悪かったら採用しない。三流校でも成績が良い学生は与えられた場所で最高の業績を出す」と。
・日本では社会人も勉強不足。長時間労働のため、帰ったら「メシ、風呂、寝る」で勉強の時間がない。
・給料が出て、年功序列で地位が上がり、経営者も任期を全うすれば満足している。その間に日本企業は世界の中では相対的に沈んでいる。
・APUの成績優秀者は、かっては中国・韓国が多かったが、今ではインドネシア、ベトナム、タイ、バングラデシュが多い。年間7万ドルの留学費用が支出可能になると、米国に留学するから。米国に行く理由は、経済成長があるから。米国の中国人留学生は(かっては、日本人は帰国するが中国人は帰国しなかった。今は逆に)成長率の高い中国に帰国する。
・1995年に米国の中国人留学生は4万人、日本人留学生は5万人だった。今は中国人留学生が37万人、日本人留学生が2万人だ。日本人留学生の減少の一因は、企業が「留学させると退社してしまう」と抑制している故。
・人間が賢くなる方法は「人(に会う)」「本」「旅」だ。
以下は私見だ。マツダランプは数名の開発設計者と大勢の工員で大儲けした。東芝青梅工場に在籍中に総務は「当工場は直間比(工員など直接員と設計など間接員の比率)が悪い」と問題視した。「プリント板のパタンの設計と製造と、どちらに付加価値があるか」と私は反論した。某仲間(山本英孝氏)は製造中心主義をFabricismという造語で攻撃したが、Fabricismは会社全体に染み付いた根強い文化だった。 以上