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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみGeneral
2017年 1月 6日
         高尾山のご来光

 元旦の混雑を一寸外して1月3日に、高尾山からご来光を見た。実は高尾山からは初めてで一度やってみたかった。今年の冬の前半は例年になく好天に恵まれ、1月3日の朝も幸い快晴の予報だった。好天の日の出前の山は寒いと思って、充分着込んだ上にリュックにも防寒衣類を入れた。

 京王電鉄は正月客を見込んで早朝臨時便を出していた。5時35分に数十人と一緒に高尾山口駅から歩き始めた。ケーブル駅前で人々は二手に分かれて、臨時ケーブルカーと、半分強が1号路に入った。いつもは谷間の山道6号路を登るのだが、暗い山道は嫌だから舗装道路の1号路を登る。

 驚いたことに1号路に街灯が無く真っ暗だった。闇を透かしてみると、毎年の裸電球の臨時配線は今年もある。多分大晦日・元旦の参拝客用に点灯し、3日朝に登って来るような不信心者までは面倒を見切れないと、節電したに違いない。懐中電灯をリュックから取り出すのも面倒だ。

 十歳位の男の子を連れた夫妻が前を行く。父親が懐中電灯を点けているので、2mほど後からしばらくついて行った。ただ彼らのペースは私のペースより若干速い。私は一歩ずつ休んでゆっくり登り、途中で休憩しない。若夫妻と男の子のペースではくたばると思って諦めた。ただ彼らは曲がり角ごとに小休止するので、何度も追い越し追い越された。その度に懐中電灯の恩恵は受けた。不思議なことに、道を踏み外すまいと闇の中で足元ばかり見て歩いていると、多少左右にふらつき、大げさに言えば千鳥足になる。寄る年波で三半規管が弱ったのかも知れない。明るい道ではモデルのように一直線上を歩けるのは、視覚が使えるからなのだろうか。

 高尾山の北側の、中央道と圏央道のICのナトリウムランプの列がカーブして美しい。そのうちに東の空が白み始めて、白い舗装道路が段々見えるようになり、道沿いの童子の銅像群も見え始めた。もう安心だ。突然轟音を立ててバイクが追い越して行った。新聞を届けるのかも知れない。

 寒さを警戒して着込んだために段々暑くなった。汗をかくと登頂後に冷たくなるに決まっているから、次々に2枚脱いでリュックに詰めた。分厚い手袋も脱いだ。血行が良くなってきたようで、手が冷たくない。

 6時25分にケーブルカーの上の駅の見晴台に到着した。薄明りで関東平野がうっすらと一望できる。ここから見た日の出は6時48分だとPCで予習してきたが、地平線上に海から来た低い雲かモヤがあり、数分遅れると見た。この分なら高尾山頂まで行けると考えて歩を早める。参道の両側に並ぶ灯篭が点灯している中を行くのは幻想的だ。私は高尾山が好きだしお世話になっており、環境保全を願ってもいるから、入場料のつもりで毎年杉苗千本(x10円の暗号)を寄付している。千本以上の芳名は達筆で木札に記して1年分を年末に参道に掲示するから、正月に自分の名を見つけるのも楽しみだ。寄付者のトップで一際大きい木札は、例年京王電鉄と八王子在住の北島三郎だ。以前は十万本だったが、談合して三万本になった。

 先を急ぐため薬王院参拝は後回しにして、山門もくぐらずに車道経由で山頂を目指す。舗装道ではないが明るくなってきたのでもう平気だ。

 かなり急いで6時45分に山頂に到達した。数十人がご来光を見ようと待っている。快晴の空に真っ白で見事な富士山も見える。まず日の出の写真を撮って、すかさず移動して富士山の写真を撮るという作戦を決めた。こういう時に、面白いことに人々は一か所に集まる傾向がある。大勢が集まっている所からなら良い写真が撮れると思う群集心理だと思う。

 私は群衆から離れて、ススキの向こうに日が昇る絶好ポイントを見つけた。同じく群衆から離れて2人だけで仲良くしているカプルが居て気の毒だったが、背に腹は代えられぬ。6時51分に赤い太陽が雲の上に顔を出したので下手な鉄砲を連射した。近景のススキと遠景の太陽を同時に撮るにはiPhoneが最適だ。翻って富士山を見れば、なんと赤富士になっていた。帰路に薬王院に参詣した。護摩供養に出席する気もあったのだが、時間が合わなかった。通常は9時まで開かない売店が7時前にはもう開いていて、「権現力」というブランド名の薬草黒酢を今回も買って1号路を下った。

 暁の道で激しいキツツキの音が「今年も度々おいでよ」と言った。以上