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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2006年 9月 7日
          フラットな世界

 先日米人から贈られた本は、驚いたことに米書の和訳版だった。
  フラット化する世界 上下、Thomas Friedman、伏見威蕃訳、日経
原題は"The world is flat"だ。下手糞な翻訳にはいらいらするので、私は英語の本は普通は原書で読む。だが今回は驚いた。3度もPulitzer賞を得たジャーナリストの筆になる原書は、ユーモラスで明快な名著であるらしいことが翻訳から読取れたが、それを伝える翻訳臭のない日本語が素晴らしいものだった。Amazonには5つ星の書評を届けた。

 Columbusは新大陸を発見して帰国しIsabella女王に世界は丸いと報告したが、筆者は印度視察から帰国して妻にそっと、世界はフラットなんだよと告げたという。米会計士事務所に頼んだつもりの税務申告書なども大量に印度が下請している。米国のCall Centerや電話Salesは勿論のこと、一部のレストラン予約サービスやIPOのための膨大な資料作成も実は印度で行われている。印度人のTV電話家庭教師を雇う米家庭が増加中だ。Drive-inの注文を聞いて調理場に指示する仕事も、印度ではないが米国内の田舎でなされている。日本の住宅メーカは手書きの間取り図を大連に送り図面化してSalesに使っている。情報通信技術の発達と普及が場所を無意味とし、世界を一つにしてしまったことを筆者はフラット化と表現する。Flat Rateという表現があるように、Flatには「一様不変」の意味がある。

 筆者は世界をフラット化した10の力を列挙している。(1)1989年11月9日(筆者は11.9と呼ぶ)にBerlinの壁が崩壊し世界で自由化が進んだ。(2)InternetとBroadbandの普及。(3)例えばアニメを世界中で分担制作できるような共同作業ソフトの発達。(4)例えば無償OS、無償百科事典、Blogのように、情報をUploadして共有するCommunityの出現。(5)Y2Kと呼ばれた2000年問題で大量のソフト改修が必要となり止む無く印度に外注した後にITバブルが弾け安い印度が評価された。(6)WTO加盟で中国が世界経済に参加。(7)Walmartなどに見られる高度なSupply Chainの出現。(8)例えばUPSのような国際宅配便の発達。(9)Googleを典型とする万民の情報検索能力。(10)Winnyのようなファイル共有技術、PC、IP電話、TV会議、CG、無線などの発達がSteroidのようにフラット化を加速。

 世界がフラット化すると、水が低きに流れるように仕事は最も経済的な場所にスムースに流れる。それを積極的に利用する人と、それは困ると考える人との対立が起こる。会社と消費者は徹底した合理化を望み、社員と国民は贅肉を残して彼らの生活向上に回すことを望む。共和党右派と民主党左派は後者を支持してフラット化を妨げる壁を構築する「壁党」を結成し、共和党ビジネス派と民主党リベラル派はフラット化を積極活用する「Web党」を結成して政界再編が起こると、筆者はJokeを書いている。

 筆者はフラット化世界への対応策を説く。代替可能な仕事は安い所に流れ、先進国の従来の中流階級は消滅するが、新中流が生まれる。それは(印度人などとの)共同作業者、まとめ役、販売など対人関係役、優れた技術者、何にでも適応できる人、など置換できない人が占める。そこで生き残るには、IQ=Intelligence QuotientよりもCQ=Curiocity QuotientとPQ=Pasion Quotientが役立つ。人が好きになれる人は対人関係の仕事で有利だ。左脳の仕事はComputerか新興国に置換され、右脳の仕事が大事になる。デジカメとPCで何でも出来る時代には独創性が勝負を決めると。

 一方フラット化から取り残されているのがアラブだ。アラブは力を望み、しかし力を得るために必要な変革は嫌う。フラット化でアラブの遅れが顕在化し、屈辱を受けていると感じ復讐を誓う。イスラム教徒が2番目に多い国は印度だが、印度の自由化によって彼らは努力すれば報われるようになった。印度のイスラム教徒は、金持を見ると自分も努力してそうなりたいと鼓舞されるが、アラブ人は金持を見ると殺したくなる。即ちフラット化で益々豊かになる人と、豊かになった人を同じフラット化を利用して攻撃する人に分かれている。その意味でNew York World Trade Center攻撃の9.11と、Berlinの壁崩壊の11.9は対照をなすと筆者はいう。

 優れた原著と抜群の翻訳で、深く考えさせられた本だった。  以上