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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2006年 1月21日
            鳥インフルエンザ

 インフルエンザに罹りTamiflu錠剤を飲んでいるというマスクの美人に会った。先週のNHKニュースは、トルコで猛威を振るうH5N1型鳥インフルエンザが、鳥から人にうつり易く変異したと報じた。まだ弱い人から人への伝染力が強く変わったという報道ではなかったことが救いだ。

 昨年2月のうつせみ「インフルエンザ」で次のような点を取り上げた。まず「スペイン風邪」は冤罪で、1918年3月に米国の兵舎で発生した伝染病が世界中に蔓延したが、第一次大戦中の報道管制の中で中立を守ったスペインの報道だけが突出した。インフルエンザのウィルスにはA, B, C型があるが、鳥系のA型だけが野鳥の媒介で世界的蔓延に至る。A型のウィルスの表面に毛髪のように生えている蛋白質には、感染先の細胞と結合して感染力を決めるHAと、感染細胞からウィルスが飛び出す増殖率を決めるNAとがあり、スペイン風邪を名誉ある1号としてH1N1型と呼んだ。1957年のアジア風邪はH2N2、1968年の香港風邪はH3N2と分類され、何れも前年の鳥インフルエンザが人の病気に変異した。1997年に香港の鶏に大流行して以来世界で跋扈している鳥インフルエンザがH5N1型である。同じH5型の中にも変種があり、人への感染度合いもワクチンの種類も異なる。野鳥は鳥インフルエンザに感染しても一般に発病しない。発病する野鳥はとっくに死に絶えている。しかし鶏舎に隔離されてきた鶏には一般に耐性が無い。

 National Geographic Magazine 10月号は The Next Killer Flu を特集した。1997年に香港は鶏1.5百万羽を処分して鳥インフルエンザを制圧したが、2001年に再発し再び制圧したものの、2002年にまた発生した。隣接の広東省では鶏は放し飼いで、感染した野鳥の糞を吸収して発生源になっていたからだ。香港政府はその後対策を徹底し、世界での流行にも拘らず2004年には1件も発生していない。代わって鶏を放し飼いにするベトナムが温床になっている。鶏が発症し報告して処分された場合の保証金が低いため報告する人が少ないとも言われる。また同様にラオス、カンボジアが問題だという。タイでは、感染しても発病しないアヒルの群を田から田に移して落穂拾いをさせ、糞を肥料として還元する慣習があり、糞がウィルスを拡散させ拡大したが、制圧努力に成功しつつあるという。

 今の所H5N1はよほど大量に吸い込んだり摂取したりしない限り人にはうつらないし、人から人に伝染した症例は限られている。しかし3つの可能性が今世界で心配されている。(1)鳥ウィルスと人ウィルスの両方に罹る豚でDNAの組み換えが起こり、H5N1の強烈さと人への感染力とを兼ね備えたウィルスが生まれる可能性。ベトナムでは人、豚、鶏が近接して生活しているのが極めて危険だと指摘されている。(2)同一人が鳥インフルエンザと人インフルエンザの両方に罹り組み換えが起こる可能性。(3)組み換えではなくH5N1が自己変異によって人への感染力を得る可能性。

 世界で20-50百万人死んだスペイン風邪以降に流行ったインフルエンザが、そこまで強烈でなかった理由は、上記(1)(2)で人インフルエンザのDNAが組み込まれた鳥ウィルスに対して人には或る程度免疫があったからだ。スペイン風邪だけはどうも上記(3)だったようで、人間に免疫がほとんど無かった。但し兵士を中心に青年の死亡率が最も高く5%台だったのは、老人には何らかの免疫があったのではないかとも言われている。あるいはウィルス対抗のために大量の白血球が作られ肺に送り込まれる過剰反応で肺炎が起こり、肺が血の混じった液体で満たされて窒息死する症状のため、反応の鈍い老人が助かったのかも知れないという。なおスペイン風邪も今や人類に免疫が出来たため、普通のインフルエンザになった。冒頭の美人が罹ったのももしかしたらスペイン風邪かも知れない。

 1月14日の朝日新聞の記事によれば、日本は世界最大の抗インフルエンザ薬の消費国で年間約300億円の市場だが、国内製薬会社2社が開発中ではあるものの、認可されているのは輸入薬3種だけで、そのうちスイスRoche社のTamiflu錠剤が国内シェア90%を占めるという。Roche社は中国・印度にライセンスした上に大増産をしているが需要に追い付いていない。

 日本ではTamifluが不足しているから、H5N1の変異は怖い。   以上