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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2005年 1月10日
             湧水

 「ノーエ節」というのがある。♪富士の白雪ャノーエ♪で始まり、富士の白雪が朝日に融けて三島に流れると歌う。いくら三島が富士山に近いとは言え数十kmも離れている。ホンマかいなと思っていたのだが、あながち否定できないと思われる不思議な現象を見た。直径2mほどの熔岩の塊を三島で見た。中央に幅2-3cmのV字型の溝がうねうねとあって水がチョロチョロと流れている。水流が掘り込んだ溝だ。水の出所はと見ると、その大きな熔岩の真ん中に3mmほどの穴が開いていてそこから水が湧いている。富士山が1万4千年前に熔岩を噴出した時に、熔岩は非常にサラサラと数十kmも流れて先端は三島で止まったそうだ。ハワイ島の熔岩も流動性が高いことで知られるが、要は温度が高いということだ。富士山の熔岩もこの時ばかりは高温だった訳だ。三島に多い湧水は全てこの熔岩の水路から湧いている。とすればノーエ節もまんざら嘘ではないように思える。

 三島は「水の都」と自称している。流れというものは最初は細く、段々水を集めて大きくなるという常識が三島では否定される。平野の真ん中で大量の透明な清水が湧き、突然立派な川が生まれるからだ。

 実は正月2日にワイフと一緒に三島大社に行った。三島大社を目指す車の渋滞は経験済みだから電車で行った。駅から気持よく歩いて大社に到着してビックリ仰天した。幅20名ほど、長さ2百米以上の巨大な行列が出来ていたからだ。正月の午後はいつもこうで、明治神宮の半分ほどの参拝客があるのだそうだ。即刻諦めて駅に戻ったが折角来たのに無念だ。思いついてタクシーで柿田川湧水群に連れて行って貰った。1号線バイパスで三島から東名沼津ICに向かう時にいつも傍を通り気になっていた所だ。バイパスの南側が水辺まで落ち込んでいる。展望台というものは大体高みに上るものだが、ここの展望台は下に降りていく。水深数十cmの水底で砂が踊っているのが湧水だ。あちこちで湧いているから大変な水量になり、水量豊かな清らかな柿田川が生まれている。なかなかの迫力で、態々三島までやってきた甲斐があったと感じさせた。

 島でもない内陸なのになぜ「三島」なのか? 三島は古くから伊豆の国の都だった。下田から天城を越えて狩野川沿いに北上した昔は唯一の伊豆半島縦断の道が、東西に通る東海道に接する丁字路が三島で、その交差点に三島大社があった。また少し西側には国分寺、国分尼寺、国造があった。伊豆は古来火山活動が盛んで、今も三宅島が噴火中だし少し前には大島の噴火で避難騒ぎがあった。島々の火山活動は神の御業だと昔は考えられていて、それをしろしめす神が「御島=三島の神」だったそうだ。

 ワイフにはフラれてしまったが、9日に独りでまた三島を訪れた。1週間前も含めて今まで何度も来ながら一度も入る機会が無かった「楽寿園」に入ってみたい興味と、先回門前払いを食らった三島大社を訪れてみたいと思ったからだ。楽寿園は三島駅前にある72千平米の緑豊かな湧水地の市立公園だ。明治23年に小松宮親王が別邸として造営し、日韓併合(明治43年)後の韓国の皇太子(王世子)李垠殿下が明治44年に譲り受け、昭和27年に市立公園となった。正門から入ると深い森だ。椎の巨木が目立つが極めて多種の木々が繁茂している。棕櫚と山茶花が隣り合っているような妙な森だ。まだ楓の紅葉が美しい。森を抜けて、邸宅「楽寿館」の南側に広がる広大な「小浜池」に出た。水面がかなり低いようだ。ところが小浜池から小道を隔てた南側の低地にある4つの池の湧水は迫力があった。小道の地盤である熔岩と水底から多量の清水が湧き出し、奔流となって源兵衛川を形作っている。その一角で冒頭の熔岩から湧き出す水を見た。周囲の湧水の水面より一段高い位置にチョロチョロと湧き出していたからなお不思議だった。梅あり、楓あり、四季に美しい庭園と見えた。熔岩の先端が冷えながら前進した時にできる皺のついた縄状熔岩が見られる。そんな所から大量の水が湧いている。ハワイ島では舗装道路が溶岩流で遮られていて、数ヶ月前の熔岩だと言われた所に同じ形の熔岩が沢山あった。

 勿体無い気もするが楽寿園の半分は動物園と遊園地になっていた。なお三島大社への車の渋滞は依然長かったが、社殿には自由に入れた。 以上