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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2005年 7月30日
            Four Corners

 米南西部にFour Cornersという場所がある。時計回りにColorado, New Mexico, Arizona, Utahの4つの州が1点で境を接している。その場所には直径3mほどだったかと思われる円盤があって、十文字に線が引いてあり、そこが4州の州境であることを示している。長年私の海外出張の留守番ばかりだったワイフを、1989年銀婚記念に約束通り米インディアン居留地特産の銀細工を買うために初めて連れ出し、二人でArizonaをドライブした時にそこを訪れた。私が四つん這いになって4州に跨った写真をワイフが撮り、次に交代しようとしたらそんなみっともない格好は出来ないと断られた。辺りは見渡す限りの荒地のインディアン居留地で、州境の周りにだけは僅かな観光客目当てのインディアンの露店があるだけだった。

 その時我々は州境から少しColorado側に入ったMesa Verdeを訪れた。「緑の丘」という意味のこの場所の谷にはさすがに木々の緑があり、数十米ほどの断崖の中ほどには、地層の浸蝕で内側に入り込んだ空洞が幾つもあって、そこに日干し煉瓦でできた古代インディアンの住居跡が無数にあった。外敵から守るには理想的な構造だ。AnasaziまたはPuebloと呼ばれている種族で、1800 BCから住んでいたが1300 ADに忽然とここから姿を消したのだそうだ。住居跡からみた文化程度は縄文・弥生のレベルだが、日本で言えば既に鎌倉時代であることに違和感を感じた。しかし日本の縄文・弥生遺跡を中国人が見れば同じ違和感を感じるのかも知れない。

 このFour Corners付近のインディアン遺跡の人口の消長をComputer Simulationしたという論文がScientific American誌最近号に載った。Object指向でやったというから私は余計に興味をもった。Object指向Programでは、或る確率で子供が生まれたり食料が不足すると移住したりという世帯の動きを表現するClassと呼ぶ一般例のProgramと、それを継承Inheritしながら、初期値を決めたり、この世帯は特に短命とかの修正ルールを加えた実例Instanceを使う。実例は一般例を引用して計算するから、一般例を変更すると全ての実例が変更される。かって私は、この技術はソフトウェアの部品化を可能にしソフトウェア生産性を画期的に向上させる戦略技術だと思って、自ら勉強して会社の若いProgrammerに教えたこともあったが、結局難し過ぎて一部のProgrammerしか使いこなせなかった。今Windowsを初め多くの本格的大量販売パッケージソフトでは優秀なProgrammerがObject指向技術を駆使しているが、受注ソフトや、小規模に販売しているソフトウェアにまで広く普及しているとは言い難い。だがSimulationには打ってつけだ。上記例では、実例Instanceを何百と作り出して野に放っておけば、実例一つずつがロボットのように自立的に動き、世代を重ね、部落が出来たり人口が増減したりする。

 研究では実例InstanceをFour Corners周辺にランダムにばら撒くと、世帯は住み易さを求めて耕作のできる平地周辺に集まり、トウモロコシを植えて人口が増えたという。最初は考古学上の推定人口の数倍になってしまったので、過大だった出生率や収穫率を調整した結果、考古学上の人口の消長とほぼ合致するモデルが得られたそうだ。そのモデルによれば、Mesa Verdeの人口は気候に恵まれて2度のピークを迎えた後、1300 AD以降の寒冷化と旱魃で1/3に激減したが、考古学ではゼロになったことが判っている。栄養失調に流行病が襲ったか、将来を悲観して移住したかであろうと、研究者は推察している。結局この時代のインディアンの人口は、気温と降雨量に影響されて増減し、シカを食い尽くして七面鳥養殖に切り替えたが、森を薪に消費し尽くし、トウモロコシ畑を疲弊させた所に旱魃が襲い、相互に戦争して生存を競ったが、崖中腹に住居を構えて防御を固めたMesa Verdeすら1300 ADには放棄されてしまった。

 今米インディアンの一部は大学を出て一般人と同じ暮らしをしているが、居留地に留まり馬に乗り荒れた畑に僅かにトウモロコシを栽培して自給自足している人も少なくない。なぜか今は部落を作らず、荒野に1軒だけポツンと建つ家で生活しているようだ。米インディアンの消長は、自然資源を使い尽くす現代の人類に大きな教訓を与えているようだ。  以上