この冬の多摩地方は異常寒波に見舞われ、水道管凍結被害が続出した。 水は温度に対して不思議な性質を示す。添付のグラフを見れば一目瞭然だ が、水の温度を高温から下げていくと、普通の液体と同様に水の比容積= 1g当たりの容積 は、僅かながら収縮する。分子の蠕動による圧力が低下 するからだ。所が不思議なことに+4℃(正確には+3.98℃)を最小値とし て容積は増え始め、凍結すると1割近く(正確には+9.07%)容積が増す。 更に続けて氷の温度を下げていくと、普通の固体と同様に分子の蠕動が弱 まり、容積は1℃当たり1万分の1程度の僅かではあるが減少する。
これを水道管凍結の観点から見れば、水が0℃で凍結して容積が最大に なった時が最も水道管破裂の危険が高いということだ。しかし世間ではよ く「気温が-4℃になると水道管破裂の危険がある」と言われる。よく見る と、「-3℃」という人も「何日も続く場合や、寒風が吹き付ける場合は気 温が-1〜-2℃でも危険」という情報もある。つまり経験則として、気温-4 ℃を境に、外気にむき出しの水道管の破裂が激増するということだ。
「水は0℃で凍結」と「気温-4℃で危険」との間に何があるだろうか?
@上記+4℃の話と-4℃の話が交錯している可能性もある。つまり-4℃が変 曲点であるという誤解だ。
A1日の最低気温が-4℃でも、それが数時間に限られるなら、気温-4℃が 水に伝わるのに時間が掛かり水が凍結にまでは至らない可能性がある。水 が凍る時には、1g当たり80カロリーの熱を放出する。その熱を周囲が奪い 去って行かないと凍結しない。また水道管の外気に曝される部分と曝され ない部分との間に水の対流が起こる可能性があれば凍結は遅れる。
B水道管の水は1気圧よりも圧力が高い。加えて+4℃以下では水は膨張し て圧力が高まる。周囲から凍り始めれば、水道管の中は益々圧力が高ま る。圧力が高まると凍結温度は下がり、0℃では凍結しなくなる。
上記のうち@は誤解だが、ABの理由で-4℃という経験値が意味を持つ のであろう。但しAの「数時間であれば」が崩れたり、風が強くて熱を奪 い去る作用が強ければ、Aの効果は薄れてBだけでは持ち堪えられず、 「-3℃」や「-1〜-2℃でも危険」ということになるのであろう。
凍結防止には蛇口にタオルを巻くなど断熱すれば効果的とも言われる。 完全な断熱があるはずもないから、これもAと同様の時間稼ぎだ。1日の 平均温度を中心として不完全度に応じて上下に温度が変化するはずだ。
寒冷地方では「凍結防止ヒータ」が使われる。サーモスタットが付いた 1m(25W)〜20mほどの幅広のコード状の低温電熱器を水道管に巻き付け、そ の上から断熱材で覆う。結構馬鹿にならない電気使用量になる。また寒冷 地方では水抜き設備が必須だ。屋内のスイッチ操作で、モータで地中の水 道弁を閉め、屋内外配管の元で弁を開いて配管内の水を地中に作った砂利 層に放出する。勿論カランは全て開放する。長期外出時には、このように 水抜きをすれば、ヒータは要らなくなるから電気代は助かる。
そもそも何故水は他の物質と異なり、+4℃から-0℃にかけて容積が増え てしまうのか。水は周知のようにH2=Oで、水素の唯一の電子が酸素の一番 外側の電子軌道の中で共有される「共有結合」によって、酸素1つに2つの 水素が結合している。水素は電子1つを占有すれば中性だが、共有のため にプラスに帯電する。同様に酸素はマイナスになる。
水分子は(何故かと聞かないで欲しいが)酸素を頂点として2つの水素 が106.6度のV字型になる。V字型だから電荷が顕著に周辺に影響する。即 ち水素のプラスと、隣の水分子の酸素のマイナスが引き合って分子が塊を 作り易い。これを「水素結合」という。水が液体の内は分子の蠕動が水素 結合を上回り、分子は自由に移動する。しかし+4℃以下の低温になると、 分子の蠕動が弱まり、水素結合によって分子の塊が出来始める。更に凍結 すると全ての水分子が水素結合で固定される。その場合水分子は6角形や 四面体に結晶し、結晶の中に空間が増えてしまうために容積が増える。
「特殊鋼製のカラン・配管で、高いけど凍結しても破裂はしない」とい う製品が出来たら売れると思うのだが、素人考えだろうか? 以上