日本経済の大破綻は必至という話を聞いた。中部大学夏期ビジネススクールで私は今年「不況期の創業の勧め」「(不況期には大事だから)Cashflow経営」「(不況期に起業し易い)Web時代の創業」を担当したのだが、その前日に行われた関係深い講義として水谷研治氏の「経済情勢の動向」を聞いた。1コマ80分のはずがQ&Aを含めて110分にも延びた。氏は名古屋大学経済学部を1956年に卒業して東海銀行に入り、日本のシティ銀行に出向してNY支店長や国内各支店長を歴任し、専務を務め、中京大、東京福祉大の教授をしておられる。10年以上前から一貫して、日蓮上人の如く、エレミヤの如く「国難来るべし」と警句を発し続けてきた方だ。早速下記著書を入手して精読したが、講義以上でも以下でもなかった。
「日本経済・絶望の先にある希望 水谷研治 PHP研 2009/1 pp217」
氏の主張は次の通りだ。
1.日本経済をGDPで計れば、1990年まで30年間は平均年率10%、10年毎に2.6倍のペースで伸びた。1990年以降は平均年率1%、ほぼ横這いで推移。
2.高度成長を経験した日本人は政府の施策さえ良ければ成長路線が取り戻せると思っているが、実は横這いすら(1)政府の景気振興策、(2)米国の過剰消費 でゲタを履いた異常な結果であって、正常値はもっと低い。
3.政府支援は小渕内閣以来急に加速し、支援を中止・縮小したら景気後退になるし、景気下降局面では更に大きな額の支援をしてきたので、国の債務は国民一人当たり数百万円に達した。4人家族なら4倍だ。夕張市は年間収入の8倍の借金で破産状態になったが、国は20倍の債務を抱える。
4.米国が輸出額の1.5倍の輸入をしてくれた過剰消費のおかげで、米国だけでなく米国への輸出で潤った世界の国々へ日本は輸出してGDPを維持してきた。中国・日本など貿易黒字国は、換金性・安全性から米国債を買うなどドルを米国に還流してきたから米過剰消費は継続できた。
5.かって米国製品は世界一だったが、もの作りを外国に任せるようになって国内生産が衰退した。日本が同じ道を追っているようだ。
6.米国はドル札を印刷して還流債務を返済(米国はこれが可能!!)せざるを得ないからドル安になり、日本を初め世界の輸出は抑制される。
7.日本も米国も民主主義国家で、国民は現状を悪くする変化を望んでいないから、当面5-10年ほどは現状の延長でヤリクリするはず。
8.5-10年後に日本は、国債発行費用の高騰で政府支援が抑制され、輸出減と相俟ってデフレが続き、安価な輸入品が求められて国内製造業は衰退する。外貨が底をつき輸入出来なくなると、国内生産も出来ないため供給不足となって悪性インフレに襲われる。そこで日本経済は初めて3.4.のゲタを脱いだ正常値に戻り、GDPは半減する。しかし終戦後の状態まで悪化することはないから、それを乗り越えて来た日本人は安心せよ。
9.日本経済の破綻で生き残るのは、真似できぬ技術を持った製造業。
なお小泉内閣は「自助」を求めて支援を抑制したため、企業は自助努力で業績を上げたが、その皺寄せが日本的雇用の破壊につながり、今はその反動でまた政府支援型施策になっていると氏は言われる。今自民党と民主党はバラマキ公約を競っている。とても財政再建どころではない。氏の警告にも拘らず、破綻まで行かないと誰も手は打てないんじゃないかな。
一々ごもっともだ。ただ悪性インフレになる必然性と、製造業中心の考え方が気になった。「サービス業では駄目ですか?」とお尋ねしたところ、「サービス業はノウハウが少なく真似されるので強みになり難い」と言われた。「Googleは真似できないサービス業になっていますが」と言ったら「それなら良いのだ」とのこと。Amazonやユニクロや吉野家も真似出来ない領域に達した。製造中心主義は多少古い可能性がある。また終戦後の苦境を乗り越えて来た日本人と、生まれた時から食うに困らず豊かな日々を享受して来た日本人とは、別人種ではないかと私は思う。
「GDP半減に備えよ」という警告は重く受け止めた。今自動車市場半減の中でもPriusは売れている。もし来年も講義を依頼されたら"Survival in the Minus-sum Economy"という枠組で考えてみようかな。 以上