少し旧聞となるが、2週間ほど前に偶然双子座流星群の端くれを見た。今までは獅子座流星群にはまっていて、1998年11月には毎分1個、2001年11月には毎秒1個の素晴らしい流星群を見た。毎年獅子座流星群の1ヵ月後に来る双子座流星群はそんなに多数は見られないと知っていたから馬鹿にして見てもいなかったのだ。ただ獅子座流星群はうまくすると2001年のように降るような流星が見られるが、時間と場所の指定が厳しく1箇所に居ると見られる年は稀だ。2001年11月19日には日本時間で2:30amと3:20amにピークがあった。その時間に夜でない地域では僅かな流星しか見えないし、年によっては当てが外れたりする。しかし双子座流星群は、最高でも毎分1〜2個程度だが地域に依らず、また1週間前位から流星が増え始めピークは3日も続く。ずっと博愛的なのだ。私共が子供の頃の田舎では流星によく出遭って珍しくもなかったが、今では日頃流星などとは無縁の生活をしているから、例え十分に1個でも必ず見えれば価値がある。
12月11日夜、後から考えれば双子流星群のピーク14日早朝の2日前だったのだが、客人を伊豆別宅の屋上に招いて天体望遠鏡で昴や蟹星雲や土星の輪をお見せしていた。幸い月が無い暖かい夜で、私が望遠鏡を次の目標に設定するまでの間客人は満天の星を眺めていた。その間十数分に1個くらいの割合で流星が流れたようだ。後で考えれば土星が居た双子座から放射していたと気づいたのだが、私は土星を如何に綺麗に見せようかと接眼レンズを取り替えたりしていて異常に気付かなかったし、客人の1人は日頃ご自分の行いが良いからこんなに流星が見えると思っていたそうだ。12日夜のニュースで「明日が双子座流星群」と聞いて初めて膝を打った。しかし東京は12日も13日も曇で、流星が見えるような空ではなかった。
そもそも流星群の原因は彗星だ。獅子座流星群の場合はTempel-Tuttle彗星が33.2年に1回(最近では1998年)太陽に近付いた際、氷がとけて直径0.1mm〜数cm程度の塵状の固体粒子が飛び散り、彗星の2本の尾の一方となる。他方はガスの尾だ。それが繰り返されて軌道全体に分布し、塵の帯がほぼ彗星と同程度の速度数十km/secで回っている。地球の軌道がその一部をかすめると、地球の公転速度30km/secと加減算した速度で大気中に突入し100kmほどの高度で燃え尽き、1mm以上の粒子が流星として見える。突入時に地球が獅子座の方向に進んでいれば、地球人には流星は獅子座から放射するように見えるから獅子座流星群となる。獅子座流星群は70km/secで突入するからエネルギーが大きく、流星痕のような空気のプラズマ化を起こす。双子座流星群はおとなしく35km/secほどで飛んでくる。
ところが双子座流星群には対応する彗星が無い。やっと1983年にNASAがその軌道上に小惑星Phaethonを見つけたが、小惑星が塵の尾を引くはずがないので3説が現れた。(1)Phaethonは氷が全部溶けてしまった彗星の亡骸説、(2)小惑星でもPhaethonはあまりにも太陽に近付くから熔けて尾が出た説、(3)太陽から離れて小惑星帯に戻った時に小惑星同士で衝突して塵が飛び散った説、がある。いずれにせよ古い時代の塵の帯だから一様に広範囲に分布しており、博愛的な性格を持つことになったらしい。
今年の双子座流星群のピークは予報より2時間半早く日本時間12月14日早朝の5am前後で、理想的な夜空(天頂に双子座が来た暗い夜空)に換算すれば1時間に120〜130個の流星が飛んだという。実際にはよほどの田舎に行かない限り1分に1個程度であろう。それも曇の東京では見られなかったはずだ。ただ今年は11日が新月で月が無かったから運がよかった。
ところで流星群が見えるのは嬉しいが、彗星や小惑星が地球に激突することは無いのか? Phaethonの軌道と地球の軌道は、地球−月の距離の8倍しか離れていないそうだ。それでも塵の帯は相当広がっていることになる。幸い木星の引力のお陰で塵もPhaethonも段々離れていき、百年後には双子座流星群は見られなくなるという。
獅子座流星群を見るのは疲れるから、老人らしく双子座流星群に宗旨替えしようか。いや2001年のように獅子座流星群で毎秒1個の流星が見えると予報されたら、やはり2時3時に起き出すだろうな。 以上