小泉政権になってから国民の所得格差が拡がり「ジニ係数」が上がったという。ジニ係数って何? 日本語のWebで見る限り判り易い解説が無い(見つからなかった)。ならば判り易く解説してみようではないか。
1936年、伊統計学者Giniが提唱したのでGini's Coefficientだ。幾つかの数値がある時に、それらが大同小異で平均値周辺に固まっているのか、それとも大小のバラつきが大きいのか、それを表現する係数である。その意味では、標準偏差と目的も考え方も似ている。
10人の人が合計1万円を持っているとしよう。所持金の少ない順に並んで貰い、1号、2号...10号と名付ける。例えば全所持金の1%=\100を1号が、2%を2号が...9%を9号が、残り55%を10号が持つとする。横軸に1〜10号を取り、縦軸に累計金額比を取ってグラフ化しよう。つまり自分及び自分より所持金の少ない人の比率の累計をプロットする。1号の位置には1%、2号の位置には1+2=3%、3号の位置には1+2+3=6%...9号の位置には45%、10号に至って100%に跳ね上がる。このグラフをLorenz曲線という。
皆が10%ずつ所持しているバラつきの全くない場合であればLorenz曲線は曲線ではなく、原点から10号・100%の点まで直線になる。この直線を均等分布線と呼ぶ。すぐ判るように所持金のバラツキが大きいほどLorenz曲線は均等分布線から下方に離れる。均等分布線とLorenz曲線で囲まれた面積を、均等分布線以下の三角形の面積で割って正規化した係数をジニ係数Gという。従って1〜10号が等しく10%=\1,000の所持金を持っている場合には最小値 G=0 となる。逆に1〜9号の所持金がゼロで10号だけが100%所持していれば最大値 G=0.9 となる。一般にn人の場合なら最大値は G= 1-1/n となり、nが大きければ最大値は1に近づく。
上記の説明に合わせて式を作れば、
G= (2/n){(n+1)/2 - Σi=1〜n (n-i+1)mi}=(1/n)Σi=1〜n(2i-n-1)mi
但しn人を所持金が少ない順に並べた時のi番目の所持金の(合計金額に対する)割合をmiとする。冒頭の2/nは均等分布線以下の三角形の面積n/2で割ったものだ。しかし均等分布線の各点の和はn/2ではなく(n+1)/2 である。線上に角がはみ出すからとも言えるし、1から10まで足せば、三角形の面積なら 10 x 10 ÷2 = 50 になりそうだが実は55であるのと同じ、とも言える。なおGiniは当初 G=(1/2n)Σi,j=1〜n|mj - mi|のように全てのmiの差の絶対値の総和の形で考えたらしい。上記の3つの式は大分形が違うが全て等価である。最初の式を作って他と検算した。
ジニ係数は標準偏差と同様、試験成績や支店営業成績のバラつきなどにも適用できるが、なぜか通常所得格差に関連して使われる。勿論生の所得と、累進所得税や福祉支援などで補正された可処分所得の格差は異なる。各国国民の可処分所得のジニ係数の年度を追ったグラフが
http://www.stat.go.jp/data/zensho/topics/1999-1.htm および
http://en.wikipedia.org/wiki/Gini coefficient
にある。主要国のジニ係数は、仏が高い位置から低下している他は全て上昇傾向にあり、日本も緩やかに上昇している。日本は米・豪・仏・加より下(格差小)で独より上だ。近年中国が急上昇して米国と並び、Brazil、Mexicoはそれより格段に高い。香港・露も米よりは上だ。
所得格差は小さいことが社会安定のためには大変望ましい。しかし所得格差がないと人々は安住して働かなくなり、全体の所得が向上しないか低下してしまうことは、共産圏経済の崩壊で実証済みだ。極端に単純化すれば、貧しくても等しい社会と、豊かだが等しくない社会とどちらが幸せかという問題になる。日本は日本流社会主義国と言われるほど等しい国だったが、近年の自由化政策で格差が付き始めた。日本流を貫いていれば日本人は幸せだったかも知れないが、日本流のムラ社会は余所者を排除しないと成り立たない。例えば全ての銀行の経営が成り立つ金利をお上が定め、容易には外国銀行参入や新規参入を認めなかった。一方では米国経済に強く依存してやってきた。そんな独り善がりが続けられるはずはなく、今米国流に引き寄せられているというのが歴史的観点であろう。 以上