初めて訪れたNew Zealand=NZで、南島の氷河と氷河地形をたっぷり見てきた。NZはついぞ商売に関係なかったし、時差が少ないから年老いて体力が衰えてからでも楽に行けるからと観光も後回しにしてきたが、急にとれた1月下旬の休暇では暖かい所に行きたいとワイフが言うから、NZめぐりのグループ旅行を選んだ。「まだNZに行ったことがないの?」と友達にバカにされていたというワイフへの償いにもなる。ところが驚いた。土産店にもレストランにも、定住した生粋の日本人やWorking Holiday(1年間アルバイトしながら国際経験ができるVisa制度)でやってきた日本人の若い女性スタフが居て、観光スポットの土産店の売上の半分以上は日本人観光客だと聞いた。結局NZに来てもNZ英語にも触れず日本食ばかりで旅行できる体制が出来上がっていた。ここ数年NZは、Hawaiiに次いで日本人観光客の初級者コ−スになっているそうだ。
NZは大体赤道を挟んで日本と線対称の位置にあると思えば判り易い。正確には時差3時間、夏時間で4時間だ。日本よりもやや緯度が高く、北緯に換算すれば東京と樺太のYuzhno-Sakhalinsk=昔の豊原 の間に、日本よりもやや太目の島が二つある。総面積は日本の7割なのに人口は僅か4百万人で、その1割が農業に従事し55百万頭の羊を育てている。もっと近いイメージを持っていたが実は飛行機で北島まで11時間かかる。
南島にNZ最高峰のMt. Cookがある。標高3,765mとする本もあるが、1991年の大雪崩で頂上の氷雪が崩れ3,754mになった。氷雪まで含めて標高を測るのもインチキ臭いが、昔の測定法では区別できなかったのだろう。富士山とほぼ同じ高さだが山容は穂高だ。NZはAustralian Plateの東端にあり、Pacific Plateがその下に潜り込むために南島では造山活動が盛んでSouth Alpsが聳え、北島では温泉と地震が多い。Mt. Cookは南緯45度にあり、北緯で言えば北海道北端の宗谷岬だ。そこに3千m級の山脈があるのだから氷河があって当然だ。実際Mt. Cookを主峰とするSouth Alpsには多数の氷河と、無数のKar=圏谷がある。日本で言えば南アルプス宝剣岳の下に拡がる千畳敷のような、お椀を半分にした地形に氷雪が溜まっている。氷河時代にはもっと大規模に氷河が発達し、海面が低かったからU字谷を深く掘り込み、それが現在氷河湖や海に連なるFjordになっている。
南島第1の都市Christchurchを朝発ったバスは半日西行し、Pukaki湖南端に達した。東西幅10km南北の長さ80kmの氷河湖は、氷河が削った岩石の微粒子Rock Flourが浮遊するために白っぽい青色の美しい色彩を見せた。湖の彼方にはMt. Cookが白銀色に光っている。そこからCessna機に乗った。副操縦士席を割り当てられた私は"I'm nervous about playing a co-pilot."と冗談を言ったら、女性パイロットはギョッとして「何もする必要はないのよ」と応えた。U字谷の壁面に広がるリゾート都市Queenstownの1億円級と言われる別荘地帯を機は低空で過ぎ、湖を縦断して北端のTasman氷河に達した。パイロットが盛んに使うHugerという単語が判らず悩んだが、やがて日本語で氷河と言っている積もりと判った。ゴツゴツとした割れ目のある氷河を遡って行くと、その源流の岩壁に囲まれた。Uターンするのかと思ったら見る見る高度を2千mまで上げて鞍部を乗り越え別の氷河の上に出た。山岳地形には複雑な風が吹き、機は激しく揺れるので少し心配になったが、パイロットに聞くと"A calm day, with a little bump."とのことだった。機は何本もの氷河を横断し、高度3千mほどでMt. Cookを2/3周して帰路についた。2つの峰を持つ美しい雪山だった。
Queenstownのホテルに泊まって南十字星に久しぶりで再会し、翌朝また半日ドライブして西岸のFjordであるMilford Soundで観光船に乗った。Soundという単語を知らなかったのだが「入江」の意味だった。なるほどNew York Long Islandの北にLong Island Soundがある。氷河で掘り込まれた濃紺の水の両岸は切り立った岩壁で、そこに雪解水が大小の高い滝になって流れ落ちる。オーバハングの岩壁では、風に吹き飛ばされて滝が途中で雨散霧消している。子アザラシが10匹ほど岩の上で昼寝していた。
南部NZは雪山と氷河と氷河湖とFjordの美しい国だった。 以上