Nobel賞モノの大発見が3月17日に発表された。南極に電波望遠鏡を据えた米中心のBICEP2 Project が、(1)初めて重力波を観測した、(2)宇宙誕生当初の大膨張Inflationを検証した、(3)重力は量子理論に乗ることが判った、と発表した。今世界中の物理・天文学者が追試をしている。
宇宙が138億年前に生まれた時、誕生後直ぐ、10^(-36)秒後から瞬間のうちに極めて急速に10^78倍に拡大=Inflationしたことは確度の高い仮説になっている。人によってこのInflationをBig Bangと呼ぶ。或いはInflationの前段階をBig Bangと呼んだり、Inflation直後を呼んだりする。混乱するから統一して欲しいのだが、一般的傾向としてBig BangはInflationの前で、ビッグバンはInflationの後であることが多い。素人の私は定義し兼ねて、Inflationを含めて宇宙の初期に急膨張した過程全体をBig Bangとここでは呼ばせて貰う。Big Bang直後にまだ超高温ながら当初よりは冷えたために水素などの軽量元素が出来て来て、宇宙に漂う荷電粒子が激減し電気的に中性となり、Photon=光子が物質の海を通り抜けられる「宇宙の晴れ上がり」を迎える。宇宙創生後38万年頃のことだ。
超高温の宇宙は強い光を発した。その後宇宙はより緩やかに膨張し続ける。我々の近くで発せられた光はもう消えてしまったが、宇宙の外れの方で発せられた光は今頃地球に届く。但し光源がものすごい勢で後退しているから波長が伸びて、地球で観測するともはや光ではなく、波長1.9mm 160 GHzにピークを持つ電波=マイクロ波になってしまった。これをCMB=Cosmic Microwave Background=宇宙マイクロ波背景放射と言い、1964年に偶然発見したBell研の研究者2名は1978年のNobel物理学賞を貰った。
物質は周囲に万有引力つまり重力を及ぼす。量子理論ではこれは物質が重力の場=Fieldを形成すると言う。電荷が電界=Electrical Field、磁荷が磁界を形成するのと同じだ。電荷や磁荷が動くと電界・磁界が波打ち電磁波が発生する。同様に物質が動くと重力の場に波動、つまり重力波を生じる。何kmもの物差しが重力波で伸び縮みするのを計る検出器は、まだ検出出来ていない。電磁力に比べて重力は何十桁も弱いからだ。しかしBig Bangのような大きな物質の移動があると強烈な重力波が生じたはずだ。
CMBはあらゆる偏光面(波動面)を持つ電磁波だが、仔細に調べると1方向の偏光が他より極く僅か強い微弱偏光性を持つそうだ。宇宙の晴れ上がりの初期にまだ残っていた自由電子に、強度の異なる垂直な2つの電磁波が照射されると、自由電子からの散乱波は偏光(Thompson Scatteringという)し、それが混じるからだ。天空の或る範囲の微弱偏光方向を天空の地図のように記録すると、円または放射状の配置になるEモードの偏光と、時計回りまたは反時計回りの子供の風車のような配置になるBモードとが混在していて、重力波の影響で時空が振動した場合には、私が理解出来ない理由により、Bモードの偏光配置になるという。雑音の中からそのBモードを拾い出し、風車状の配置を示し、重力波の影響を見たと発表したのが BICEP2=Background Imaging of Cosmic Exragalactic Polarization 2 のProjectの功績だ。宇宙誕生直後のInflationの重力波が、38万年後の宇宙晴れ上がり初期の電磁波の偏光に影響したことになる。
雑音の少ない南極で天空の一部だけの観測なので、今後全天を調べる。確認されれば、Inflationで重力波=「原始重力波」が生じたことが証明され、その重力波を間接的ながら初めて観察できたことになる。
今までInflationを説明・推論する百もの仮説があるというが、今回の方法で重力波の性質からInflationのあり方が判ると、多くの仮説は破棄されて絞られてくるそうだ。"Looking for a needle in a haystack"から"Looking for a needle in a bucket of sand"に進化すると。
またInflationは量子理論的現象だが、その結果重力波が発生したのなら、重力は(他の3つの力:電磁力、(核内の)弱い力、(核内の)強い力と同様に)量子理論的存在だということになるそうだ。宇宙誕生初期の超高温超高圧の環境では、これら4つの力が分化する前に1つの力であったことはかねてから推察されているが、それが否定されなかった。 以上