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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2002年 2月13日

            森 英恵

 原宿の森英恵ビルにワイフに連れて行かれた。表参道を歩く女性は中身はともかく大変上手に装っていることに気付き、それらを愛でつつ、ファッション店街に変身した同潤会アパート前の並木道を行く。全くファッションに土地勘のない私と、何度か来た事はあるが完全な方向音痴のワイフの二人は、「僕が道を聞いてあげるから他人を装って少し離れていたら?」などと言いながら表参道も一番はずれの方にある森英恵ビルに達した。なんだ隣の新しいビルまでは投資会社を訪ねて来たことがある。月末から船旅に出るに当たり、Formal Dinnerの回数を数えてどうも洋服が足りないというのがワイフの見解で、森英恵氏のPret-a-porte(Prepared for wearing 既製服)は高価だが何年経っても古くならないセンスがあるから結局経済的だというやや疑わしい理論を承った。

 5階建てのビルの1階はハンカチ、ストッキングなどの小物と若干の既製服、チョコレート、喫茶室だった。2階がCasualからSemi-Formalな既製服とMonsieurという名の男物の店、3階がFormal既製服と、予約でHaute Couture(High-Class Sewing 注文服)の店、4階はCitibankが入居していて5階がファッションショーなどのイベント階になっていた。1階からイメージに合致するドレスを求めて見歩き、結局3階のPret-a-porteに行き着いた。そこで私は発見したのだが、日本ではFormalなドレスは結婚式用ドレスとほぼ同義語のようだ。その中から結婚式風でないドレスを選ぶのが目的意識となった。ワイフは既に持っている黒のロングスカートよりも少し短めの黒いスカートを探していることが分かった。「たかが20-30cm長さが違う似たようなものを買うより、紺色とか柄ものとか違うものを買ったほうがいいんじゃないか?」と一応は言ってみたが、この20-30cmが「大違い」なのだと言われてしまうと「そんなものか」と思う他は無い。私は蝶の模様がデカデカとあるドレスでも探すのかと思ったが、黒のスカートを買うのに森英恵本店に来るかなあ、と狐につままれた感じ。

 しかしそこの店員には感心した。スカートを試着しているうちに見定めておいて、「そのスカートにはこれが...」と或るジャケットを差し出した。それがピッタリ合ったから驚きだ。ワイフはデパートでも既製服を全然直さずにそのまま着られる経済設計になっているのだが、それにしてもそういうサイズと好みの組み合わせをいっぺんで見抜いたのはさすがである。だがもっと驚いたのはその値段で、私の予想の数倍であった。だがこれほどピッタリ合ってしまってはシャッポを脱ぐしかない。森英恵氏の店は大抵のデパートにある。我々から近い新宿では伊勢丹、小田急、京王にみなある。それらと比べても原宿は高いように思って、「デパートの店と同じ品ですか?」と尋ねてみたが、そうだという模範解答だった。

 森英恵氏は我々より年上のはずだ。何しろ映画「太陽の季節」の衣装を担当したはずだから。東京女子大の卒業生名簿でもあれば正確に分かるのだが。東洋から独りだけの La Chambre Syndicate de la Couture Parisienne の会員で、Legion d'Honneur勲章受賞者でもある。今は長男の顕氏が(株)ハナヱ モリの社長で、そのお嫁さんになったCalifornia生まれの元モデルの森Pamela氏が英恵氏を継ぐデザイナになってやっている。東京だけでも十数店出している。

 ところが昨年末に或るニュースを見た記憶があったので改めてWebで索引してみた。(株)ハナヱ モリはPret-a-porteの製造・販売・ライセンスの事業を、60店舗とともに売却し、森英恵氏はHaute Coutureに専念するそうだ。売却先は三井物産と英国Rothschildグループが3月に設立予定の新会社になるという。バブルで売り上げを伸ばした後、不況で最近は売れ行きがあまりよくないそうだ。私の邪推では、バブル時代に借金して拡大路線を採ったのが裏目に出て銀行のご指導で売却するのかな。

 明るく優しい森英恵ファッションは私は好きだ。ワイフにもっと着て貰いたい気持ちは十二分にあるのだが、何しろ高価なのが玉に瑕だ。この雰囲気が変わったり無くなったりしたら世の中が暗くなると思うから、そうならぬように三井物産殿には希望したい。           以上