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うつせみ
2002年12月27日
           平成三十年

 書店の店頭には今日本経済はこれからどうなるといったテーマの論説、解説、小説などが山積みになっている。その中で堺屋太一著「平成三十年」という本が面白く思われ買ってしまった。読み始めてから上下2巻であったことに気付き、もう1冊買った。最初から2巻と分かっていれば厚さに恐れをなして買わなかったかも知れない。
 平成三十年 上下2巻 堺屋太一 朝日新聞社 2002/7初版 pp781
著者が経済企画庁長官になる前に、平成三十年に日本の政治経済はどうなっているかを大胆に予測して朝日新聞に連載した未来小説を、大臣退任後に大幅修正したそうだ。紙上で断片的に読んだ覚えがあるが本として一度に読むとインパクトが全然違う。政治・経済・日本の将来に関心がある人で速読術を持つ人にはお薦めの面白い本だ。特徴は3つある。

 (1)日本を立て直すには織田信長の再来しかない、という著者の持論を描くために、織田信介という強烈な政治家が登場する。足利義昭役の足川義明を担いで政権を実質奪取する。よく見ると柴田勝家、前田利家、木下藤吉郎、明智光秀など見慣れた名前に近い名前の官僚が続々登場する。木下役は気に入られて抜擢される。木下役の上司明智役は忠勤を励むが、織田の改革速度に追随できず亀裂が生じ、官僚の主流から外されて島根県(出雲・石見)知事に立候補しろと言われ、本能寺の変を起こすが、その成否が定まる前に下巻は終わる。パロディの面白さだ。

 (2)政治家の行動パタン、官僚の行動パタンが、特徴を誇張した似顔絵のように鮮明に描き出されていてさすが見事という他はない。

 (3)一番の特徴はやはり平成三十年の未来予測である。平成三十年なんて直ぐ来てしまうから、その時に堺屋太一も馬鹿だと思われるかさすがと思われるかを左右する予測に、大きな努力と賭けをしているはずだ。成る程と思わせる予測であり、説得力がある。

 筆者の平成三十年予測は暗い。小泉内閣が構造改革を掲げて頑張ったにも拘わらず、出来たのは盲腸切除くらいで、日本の体質は全く変わることなく平成三十年を迎えている。政官業の依存関係は継続し、規制緩和の一方で票田の業界・社会の救済を大義とした規制が形を変えて続き、従って経済は停滞し続ける。安全や環境を理由として輸入による競争を制限して業界秩序を守る。その業界団体に補助金を出し、官僚が天下りする。生産性が上がらないから年数%のインフレが生じ、従って$=\230辺りまで円安となり、それで換算した一人当たりのGDPは台湾・シンガポール・韓国に抜かれ、かって経済大国だったアルゼンチンの没落と対比される。円相場、株価、国債が下落して三落と言われる。高齢化と人口減少が進み、中規模都市の過疎化が発生する。専業大規模農家育成が進められ、小規模兼業農家は農村を離れ、田舎の更なる過疎化が進む。税収は停滞するが歳出は減らせないので消費税は20%まで上昇するが、それでも国債発行は止まらず、地方債まで含めた公的債務はGDPの1.3倍になる。庶民の余裕がなくなって海外旅行が減少した分アジア諸国からの日本観光は増加し、スペインと対比される。揚子江中流域に日本の高齢者用の都市ができ、少し蓄えのある高齢者はそこに移り住む。

 明るい話もある。現在のカラオケが発展してPersonal Entertainmentパソエンなるものが出現する。曲目ならぬ劇目を選んで、センサ付きの衣類で動けば、大スクリーンに投影される舞台衣装の劇中の登場人物となって、観音様の掌中で飛翔する孫悟空や楊貴妃の入浴を演じることができる。これがカラオケと同様に宴会の余興として全世界に普及する。

 上記のように改革を唱えつつも実態は旧弊にがじがらめの日本を、織田信介は同調者に仕立てた一部官僚とともに快刀乱麻を切る如くバッサリ改革し、楽市楽座と称して自由競争化を進め、政治家や官僚の常識と反発を覆す。本能寺の変を生き延びてその改革が継続するのか、秀吉が継続することになるのかは、本書の余韻の中に残され、従って改革の成果は見られないが、多分こういう形でないと日本の改革はできないのではないかと思わせる。描かれている未来は暗いが、面白い本を読んだ。    以上