7月4日夕方、Higgs粒子=Higgs Bosonが発見されたというNewsが世界を駆け巡り、NHKのNews Watch 9でも取り上げられ、翌朝の朝刊紙上を賑わせた。当日Melbourneで高エネ物理学会が開かれていて、そこで現地時間4pm、日本時間5pmにHiggs Bosonに関する何らかの発表があるとの情報が流れた。発表主体のGeneveの国際研究所CERNの同時発表会場(現地時間9am)に、徹夜で1千人が列を作って会場が開くのを待っていた所に、Edinburgh大Peter Higgs教授(1929-)等が招かれて入って行ったのを見て、いよいよHiggs Boson発見の発表だと確信した人も多かったという。
物質は分子から、分子は原子から、原子は原子核と電子から、原子核は素粒子から成り立つ。電子は素粒子の1つだ。重力を棚上げにした素粒子物理学の集大成が標準理論=Standard Modelである。そこでは素粒子を3つに分ける。まず(1)電荷を帯びた6種類のQuarkがある。Quark 3個が「強い力」で結びついて陽子と中性子になる。また(2)電荷マイナス1の電子と電荷の無いNeutrino、およびそれらに似た計6種類のLeptonがある。QuarkとLeptonを総称してFermionと言う。12種のFermionが物質を構成する。
あと1つは(3)Bosonで、Fermion相互間に力を生じさせる。正電荷と負電荷が引き合うのは、正電荷が作り出す場の歪の中で負電荷が低エネルギー方向に惹かれることだ。同時にこれはBosonの一種であるPhoton=光子が両電荷の間を行き来して力を及ぼすと考えることも出来る。全然違う話のようだが、同一の偏微分方程式の解き方である。実際に方程式を解いてみれば実感が湧くのだと思うが、それをいサボる我々は、場と粒子が互換性があるという呑み難い塊をグッと呑みこまないと話が進まない。
電磁力はPhotonの働きだ。同様に「強い力」はGluonというBosonが関与する。素粒子の崩壊に関わる「弱い力」はW Boson又はZ Bosonによる。以上でBosonは4種だ。なおBosonの名は、Einsteinと共同研究した印度人物理学者Bose氏に語源があり、Fermionは伊系米人Fermi氏から来ている。
以上の話からは、質量=モノの動かし難さと、重力=万有引力=質量同志に働く引力、が抜けている。後者の重力に関しては、重力の場とか重力子=Gravitonと呼ばれるBosonの存在が提案されてはいるが、そもそも重力と素粒子を同時に扱う理論は今模索の最中で、標準理論の外にある。
一方質量だが、Photonは質量ゼロだが、それ以外の素粒子は質量を持つ。上記のHiggs教授と6人の理論物理学者が1964年にHiggs理論を提案した。素粒子の動きを妨げて質量を与える水飴状の「Higgsの場」があり、その場に対応するHiggs Bosonが存在するという提案だ。この提案を認めれば(重力を無視した)標準理論は体系として完成する。しかし最近まで誰もこの5番目のBosonを発見できず、標準理論の泣き所とされてきた。
従来の加速器ではエネルギー不足でHiggs Bosonが発見出来なかったのではないかと考えて、CERNは仏・スイス国境に1周27kmの疑似円形加速器LHCを建設した。$10B(B=10億)を掛けたが予算不足で超電導電磁石を設計の半分しか実装していないため、エネルギーも半分しか出ない。それでも昨年末にはHiggs Boson発見の「ヒントが得られた」という発表をした。今回の発表は「Higgs Bosonと思われる新粒子を発見した」であった。具体的には陽子を光速の99%に加速して正面衝突させ、一瞬Higgs Bosonが飛び出すが直ぐ他に質量を与えて100万分の1秒ほどで消滅した時に、残余エネルギーからPhotonが2個飛び出すのを検出する。Higgs Bosonと断定するにはまだ性質を色々調べて理論と合致することを確認する必要がある。
しかし世界の物理学者は今皆Higgs Bosonが発見されたと思っている。新粒子のエネルギーは、2つの検出器の一方CMSでは125.3 GeV、他方のATLASでは126GeVと測定された。今までの加速器では115GeVまでしか実験できていなかったが、今振り返れば兆候はあった。なおeVとは電子1個を1Vの電位差で加速して得られるエネルギーで、GeVはその10億倍だ。
標準理論が確立した(多分間もなく確立する)ことで、物理学の焦点はいよいよ重力の解明と、重力を取り込んだ素粒子理論・量子力学に向かう。既に超対称理論など幾つかの有力仮説が提案されている。 以上