米科学雑誌Scientific American 9月号は、人類の誕生からの7百万年の歴史/現在/将来を特集した。二三年前まで私は、人間とChimpanzeeが共通の祖先から分かれたのは5百万年前(5 mya=million years agoと略記)と理解していたが、2002年に発見された7 myaの頭蓋骨が、長年の大議論の末に2013年に、人間の祖先だと認定され、人間の歴史は7 myaから始まることになった。加えて私は高校で、北京原人、ジャワ原人、Neanderthal(-tal)人、などが段々進化して我々現代人のHomo Sapiensになったと習ったが、今ではHomo Sapiensがこれら原人を滅ぼして勝利したとされている。最初はこれら原人とは全く混血が無かったとされていたが、最近の研究ではNeanderthal人の遺伝子の20%ほどがバラバラに平均3%ずつ欧州各種族に入り込んでいて、Neanderthal人の遺伝子を持っていた方が環境適応力で有利だったという説もある。以下は記事の紹介だ。
ヒト族=Homininiはヒト亜族とチンパンジー亜族から成る。但し雑誌は新しい分類法でヒト亜族をHominini、その個体をHomininと呼んでいる。ヒト亜族はアフリカで生まれ、何億年もさしたる変化が無かった後、2.6 myaに石器の刃物が発明され、動物の肉を食べるようになってから脳が大きく成長した。2 myaにヒト族ヒト亜族ヒト属=Homoがアフリカに出現し、南北米以外の旧世界に拡がった。ヒト属は各地で発達し、欧州ではNeanderthal人=Homo Neanderthalensis、東アジアでは北京原人・ジャワ原人を含むHomo Erectus、アフリカでは現代人の先祖Homo Sapiens、その他十種ほどのヒト科に分化した。Homo Sapiensは10万年前(100 tyaと略記)にアフリカを出て南北米を含む全世界に広まり、その他のヒト科と共存しつつ圧倒して短期間に絶滅させ、現代人の唯一の祖先となった。
ヒト属の遺伝的進化・文化的進歩は徐々に継続的に進んだのではなく、何千年もさしたる変化が無い後に小グループに突如変化が現れ、それが拡散した。Homo Sapiensによって南アフリカで77 tyaに記号が刻まれた石が発見され、言語や抽象的認識が行われたことが推定されている。これは計画性に通じる重要な進化で、Homo Sapiensの主要勝因とされている。
ヒト属は単婚=一夫一妻である。例外的な多婚制度もあるが、大多数は生涯添い遂げる単婚だ(近年女性の地位向上で「生涯」が怪しくなっているが)。これは霊長類でも珍しいそうだ。そのおかげで(1)複数の家族が性的ストレス無く協力して共同生活できるようになった。脳が大きくなったために育児期間が長くなり育児負担が増したことを、この共同生活が補った。(2)多婚のゴリラではボスが代わると前のボスの子は殺される。またオスはハーレムを守るために大きなエネルギーを消費する。そういうことがないヒト属では出生率・育成率が高く、種として優勢になった。
何時からヒト属は単婚になったかは学界の議論の的だそうだが、遅くとも2 myaのHomo Erectusでは単婚だったとされる。男の犬歯が闘争用から退化してきたのと、男女の体格差が20%程度に縮まって来たことから推察できるという。単婚と共同生活の結果、女が排卵と妊娠可能時期を兆候として外に表すことがなくなり、これも霊長類では珍しいことだそうだ。
その協力が言語で補強され、伝承、慣習、タブー、規範(後に法律)などによって高度化されたことが、Homo Sapiensの優勢を決定付けた。
一方自然界では一番優秀なボスだけが多婚で子孫を残し、適応不充分な個体は死んでいく自然淘汰が働く。現代では遺伝的な難病の人も手術や介護で生き延びる。世紀の美女とされる米女優Angelina Jolieは乳癌発症のリスクが高いと診断されただけで乳房を切り取ってしまった。だから人類の自然淘汰による進化は止まったのかというと、そうではなく、進化は続いているという。11 tya以降に農業が普及するにつれて澱粉消化の優れた酵素を持つ人口が増えた。人類は幼児期には母乳を消化する酵素を持つが、成長すると無くなってしまっていた。しかし7.5 tya以降に家畜の乳を摂取するようになると、大人でもその酵素を失わない人口が増えた。現代ではこれらの酵素が無くても人は生きる術を持つが、出生率に微妙な差があり、長年の間にはやはり適者生存による進化が進むのだという。以上