Ice Cubeとは冷蔵庫で作る角氷のことだが、IceCubeとは南極点の分厚い氷の中に建設された巨大なNeutrino検出研究施設のことだと、米誌Scientific American 10月号で知った。小柴昌俊元東大教授がKamiokandeで超新星から飛んできたNeutrinoを検出したのが1987年の定年1ヶ月前で、Neutrino天文学を拓いた功績で2002年のNobel物理学賞に輝いた。その業績を背景に純水5万トンを湛えるSuper-Kamiokandeが建設され、それでNeutrinoに質量があることを示した功績で梶田隆章東大宇宙線研長が今年のNobel物理学賞を受賞した。恐らくKamiokandeに触発されたのだと思うが、米University of Wisconsinが中心になり南極点の米基地の地下、いや氷下に、2005年から建設が始まり数百億円掛けて2010年にIceCubeが完成した。意外にも南極点の氷は何千米もの厚さがあり、下の方はほとんど透明なのだそうだ。透明度の良くない部分を避けて使う。
氷に「熱水ドリル」で深さ2.5kmの垂直な穴を掘り、同じ長さのStringと呼ばれる装置を下ろすとすぐ透明な氷で覆われる。Stringには17m置きに60個のセンサが付いていて、氷上から1.5km下から2.5km下まで深さ方向に1kmにわたってセンサを配置する。(私の概算が正しければ)約60m=200ftを一辺とする正三角形の3つの頂点にStringを挿入し、正三角形を重ねて86本のStringを正六角形の形に配置する。正六角形の面積 x 深さ1km=1km^3(立方km)の範囲に、60 x 86 = 5,160個のセンサが配置されている。六角柱の形をしているので立方体ではないが、IceCubeと呼ぶ。
センサは(Kamiokandeと異なり)方向性が無く、全方位の光を感知し、光倍増機構とコンピュータがデジタル信号にして氷上に送る。氷上では各センサからの情報を集めると共に、上空からの宇宙線を検出し、宇宙線が大気に衝突して発生したNeutrinoを観測から除くとか、超新星が宇宙線とNeutrinoを同時に放出したのを捉えるとか、相互関係を見ている。
原子の大きさに比べて原子核や電子は非常に小さく、スカスカだ。巨視的には机も車も固くスカスカではないが、これは原子の電子が、別の原子の電子が近付くことを拒否するからだ。電荷を持つ電子や陽子を物質にぶつけると、電気力で原子核や電子に引き付けられて衝突する。しかし電荷を持たないNeutrinoは物質にほとんど影響なくすり抜ける。しかし稀にNeutrinoも原子核に衝突すると様々な粒子が飛び出す。その粒子が水中や氷中で飛び、水中や氷中の光速( < 真空中の光速=3 x 10^8m=速度の上限)を越えると「Cherenkovの光」という光跡を生じる。その光を捉えてNeutrinoを間接的に検出するのが、KamiokandeやIceCubeである。
Super-Kamiokandeでは5万トンの純水を使うが、IceCubeでは1立方kmの氷はおよそ10^9トンだから、4桁半大きい。しかしSuper-Kamiokandeは微細な光跡も逃さないが、IceCubeはセンサの間隔が粗いので、短い光跡はセンサの近くでないと検出できないし、単一のセンサが検出しても方向・速度すら分からず解析できるデータが得られない。つまりIceCubeはエネルギーの低いNeutrinoの観測は苦手だが、数十〜数百米の光跡を残す高エネルギーのNeutrinoなら稀に飛来しても大容量のどこかで捕捉する。
陽子などの荷電粒子が飛んで来る宇宙線は、超新星からだろうと言われているがまだ推論の領域だという。宇宙線はすぐ散乱してしまうから発生源の方向は掴めない。しかし宇宙線は高エネルギーNeutronと同時に発生するという仮説があり、Neutronはほとんど散乱しないので同時に飛来方向を解析すれば宇宙線の源も分かり、宇宙の生い立ちに光を当てられるというのが、IceCubeの研究目的だそうだ。確かに得意技に合致する。
原発由来のNeutrinoの10^3倍、太陽から飛来するNeutrinoの10^9倍以上の高エネルギーを持つNeutrinoが2012-14年に54個検出され、その飛来方向から見て、一部は太陽系外の天の川銀河由来だが、多くは天の川銀河の外から来ているという。燃え尽きた巨星がNeutrino星やBlack Holeになる際に強い光を発する超新星や、超巨星の場合のγ-Ray Burstという爆発が、宇宙線と高エネルギーNeutrinoの源という仮説を、IceCubeは証明しようとしている。また体積10倍のSuper-IceCubeを計画中だという。以上