米誌American Science 7月号に"How to Boost Your Immunity"(免疫を強化するには)という小さな記事があり、時節柄興味を持った。侵入して来た細菌やウイルス、または型の違う血液のような異形の蛋白質を排除する汎用の自然免疫がまず働き、その間に侵入した特定異物の排除に特化した適応免疫が泥縄で用意される。その両方を含めて論じている。
新型コロナウイルスの場合は、1万分の1ミリの球形ウイルスの表面に約百本生えているSpikeと呼ぶ突起物が、人間の細胞表面のACE2という受容体にピタッと嵌って執り付き、ウイルスごと細胞に入り込むか、または球形のウイルス本体からウイルスの遺伝子を人間の細胞に送り込み複製・増殖させる。ウイルス遺伝子は怖いが、突起物だけなら悪さをしないので、突起物を人に予め注入して、免疫作用で突起物を攻撃する抗体を作っておけば、本物の新型コロナウイルスが来ても撃退できるという考えで、世界中の研究者が突起物を使ったワクチンを開発している。突起物をどのように増殖し、また人に注入するかで、多数の方式が研究されている。それにしても注入された突起物に対して抗体を作るのは、各人の免疫機能である。つまり免疫機能は、ワクチン以前にも、ワクチンでも大切だ。
記事ではその免疫力を強める方法が列挙してあった。まず第一に禁煙だ。喫煙は呼吸器伝染病に悪いと言っている。二番目に、野菜・果物・その他の健康食の多種多様で栄養をとるようにせよと。三番目に、良く寝て毎晩適切な休息がとれる確率を上げること。四番目に、常に運動すること。それは睡眠にもつながると言っている。
ビタミンCとDは、呼吸器伝染病への抵抗力を増すと知られているそうだ。新型コロナウイルス関連では、ウイルスに対する抗体が出来過ぎて、暴走して正常な組織をも攻撃し始めるという死因があるが、ビタミンCはそういう暴走を緩和する。心臓手術をした患者がビタミンCを摂ると、集中治療室や人工呼吸器の使用日数が減る効果があると2019年に報告されたそうだ。新型コロナウイルスにも効くか否かは研究中とのこと。
ビタミンDは、重症呼吸器疾患患者のリスクを下げるという2017年の研究があるそうだ。米人の40%はビタミンD不足だが、米国内の黒人と中南米人ではこの割合はずっと高いという。生憎米国で新型コロナウイルスの流行が始まった晩冬・早春は、日光に当たることが少なくビタミンDのレベルが低かった季節だったとも。但し新型コロナウイルスに当てはまるか否かは研究中だという。研究者は、バランスのよい食事と共に、多種のビタミンを含むサプルメントがお勧めだと言っている。栄養不足になりがちな高齢者には特に助けになるのではないかという。
睡眠が我々の免疫を強化することは、新型コロナウイルスに関係無く古くから研究者に知られて来たという。良く寝た人よりも、ワクチンを処方した後に眠らせなかった人は免疫反応が弱いことが分かっているそうだ。免疫を司るT細胞がリンパ節に移動して外敵分子に出会い抗体を作るのだが、その移動を睡眠が活発化するという。2015年の研究では、164人の健康なボランティアの鼻に鼻風邪ウイルスを付けたところ、毎晩7時間以上寝る人よりも、6時間以下しか寝ない人の風邪の感染率は4倍も高かったという。同様に57千人の女性を4年間観察した研究では、8時間寝る人より、5時間以下しか寝ない人は肺炎に罹る確率が40%高かったという。
睡眠時間・健康的な食事・ビタミンだけでは、必ずしも新型コロナウイルスを防げないかも知れないが、免疫の強化は健康を危うくする脅威に立ち向かう上で真の光明だと記事は結んでいる。それは納得できる。
多数の論文を読んだ上での私見では、次のようなイメージを持っている。人口の全員を精査すれば、新型コロナウイルスの発症者1人に対し、感染力のある無症状感染者が1人、知らぬうちに感染し自然治癒してウイルスを既に持たない抗体保有者が4人居るというイメージだ。願わくは、この4人のうちに入りたいものだ。そのためには免疫力を強化しなければならない。我がワイフと、その遺伝子を受けた息子達は、良く寝るし、風邪もインフルも知らない不思議な人類だ。高等人類は私だけだ。 以上