日本の所得分布を知りたくなった。まず所得をどう捉えるか? 世帯所得を捉える場合と、それを世帯構成人数の平方根で割って「等価」個人所得とみなす場合とがある。額面所得を捉える場合と、所得+年金等社会福祉給付(住宅・食糧など現物給付を含む場合と含まぬ場合も)から税金と社会福祉費を差し引いた所得再分配後の「可処分所得=再分配所得」を捉える場合がある。いずれの場合もどの国でも、所得分布グラフは大体似た形になる。横軸に所得、縦軸に世帯数(人口)をとると、縦軸に近い低所得領域に槍ヶ岳のようなピークが現れ、右側の高所得領域にかけて指数関数的に減少し、極く少数の高所得者が右端に低く長く続く。
各国の所得分布を比較するには、横軸を対数目盛にするとよい。グラフの低所得部分が左右拡大され、高所得部分が縮小されて、特徴が良く表れる。対数目盛では典型的には「自由の鐘」型のグラフが得られる。
http://www.g20.org/Documents/poverty_and_inequality_g20.pdf
には、1998年のデータで古いが、G20各国の個人再分配所得の歴史的推移と特徴が表れている。欧州や日本は経年変化が少なく鐘型のグラフだ。米国はグラフの左側=低所得側に宝永山のようなコブがある。失業者など低所得者が塊になっていることを示す。逆に右側=高所得側にコブがあるのが印度だ。歴史的に低位の鐘型分布だったが、ITを中心とした経済発展に従って右に拡大しつつこのコブが顕在化してきた。コブはITの波に乗れた人口だ。一番変化が大きいのが中国で、幅の狭い鐘型分布から右にシフトしつつ幅広い分布に変わってきており、右端は日本や米国の分布に深く入り込んでいる。格差の国Brazilでは、高原の右側に一部エリートの独立峰がある。哀れなのがArgentinaで、三つの峰になっている。
格差を表すGini係数がある。伊統計学者の名前だ。次の思考実験をしよう。何百人かに所持金の少ない順に1列に並んで貰い、先頭から所持金を全て募金して貰う。何人目までで幾らの募金が集まったかをグラフ化すると、最初は貧乏人の募金なので緩やかに上昇し、後半に至って急速に上昇するから、パラボラ・アンテナのような形のグラフになる。集まった募金を全員に均等に配分してから、もう一度同じ実験をすると、今度はグラフは直線になる。その直線の下側の三角形の面積をAとする。パラボラ・アンテナ型のグラフと上記直線によって囲まれる面積をBとした時に、B/AをGini係数という。均等配分ならGini係数はゼロだ。ガキ大将1人が全員の所持金を巻き上げた究極の格差状態では、Gini係数は100%だ。
各国の世帯再分配Gini係数は例えばCIAが比較している。
https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/fields/2172.html
各国はおよそ3つのグループに分かれる。Gini係数つまり格差が最も小さく20-30%なのが北欧諸国だ。その分国の経済発展も抑制される。欧州各国が中間で30-35%だ。最高のBrazilの50数%を初めMexico、ArgentinaなどがGini係数の高い国で、40数%の米国もこのグループだ。改革開放の中国とRussiaが急速に米国に追い付いてきた。日本は38.1%(厚労省2008データでは世帯で37.6%、個人では32.0%)で欧州各国の上端に当たる。
一方OECDでは、個人可処分所得に関して、中央値(所得順に1列に並んで貰った時の真ん中の人の所得)の半分以下の所得しかない人口比率を相対貧困率としている。2006年発表のデータでは、日本の相対貧困率14.9%は、悪い方から数えてMexico、トルコ、米国に次いで世界4位だった。
Gini係数が中位の日本でなぜ相対貧困率は高いのか? 勿論絶対値では日本は豊かだ。冒頭に言及した所得分布グラフの槍ヶ岳型のピークが他国よりも相対的に左寄り(低所得側)なのだ。これはGini係数を高くする要因だが、逆に日本は高所得側が貧弱で、これがGini係数を下げている。
日本の所得分布グラフのピークが相対的に左寄りである理由は、(1)核家族化、特に未婚子女の独立、(2)高齢低所得世帯の増加、(3)非正規等低賃金層が厚い、(4)所得再配分制度が米国並みで欧州などに比べて貧弱、などである。一方日本に高所得者が少ない理由は、(1)家族主義・平等主義・共存共栄主義、(2)創業成功者が少ない、ことであろう。 以上