房総半島の先端は日本列島の下に潜り込む太平洋プレートに引きずられて年々僅かずつ沈下し、しかし歪が或る程度溜まると突然ピンと跳ね上がって隆起することを繰り返して来た。別の譬えでは、雪道で左に流れる車を戻そうと懸命にハンドルを右に切っても効果なく、しかし突然車が右に飛び出すといった経験は無いだろうか。近年デフレが続き、その対抗策が無理を重ねて相当な歪を蓄積してきている。何か小さなきっかけから逆に跳ね上がってハイパーインフレになりそうな気がしてならない。
青木参院幹事長が「小泉首相は変わってきた。喜ばしい」と言った。小泉首相が当初の蛮勇を失い守旧派に妥協を重ねている。世論が変わったからだ。危機感がなく総論賛成各論反対の世論が蛮勇を支持せず、痛みを嫌い、旧来の構造を基盤とした緩やかな変化を求めている。世論が抵抗勢力である以上例え菅首相となっても大同小異だ。本当に必要なのはCarlos Ghosn流の改革で、日産では痛みに泣いた人も多かったが結局は最大多数の最大幸福になりそうだ。政治でこれが出来ないから、改革の代わりに何とか金融政策でと日銀への圧力が高まり日銀は無理を重ねている。
日経ビジネス最近号に「日銀総裁は魔術師が適任」という表題があった。政府・自民党には、日銀がデフレ退治に非協力的だ、なぜインフレ目標を掲げないのかという憤懣が渦巻き、次期総裁には協力的な人材をという願望が強いらしい。しかし私のような門外漢にさえ鮮やかに、日銀は精一杯インフレに舵を切っている。まず日銀当座預金残高、つまり金融機関が何時でも引き出して貸付けに回せる金がこのところ急増しており、意図的に金をダブつかせていることが分かる。法律で禁止されていたはずの国債購入も、憲法九条と同様な解釈の妙で大々的に行っており、あろうことか日銀の資産毀損を賭けて株式まで購入するという。
これだけ金をダブつかせても世の中に金が回らずデフレが続くのは、銀行が無能で下降線をたどる不動産を担保にする他に貸出し能力がなく、国債ばかり買っているからだと思っていたが、野村総研 Richard Koo氏によればその影響は1-2割で、主因は民間企業がバブル時に膨らんだ借入金を年間20兆円も自ら返済または貸しはがしに遭っていて、世の中に流通する金は減少していることだという。金回りを良くするには銀行には頼れない、ヘリコプタで金を撒けという暴論をテレビで聞いたことがある。是非八王子方面で撒いて欲しいものだ。
速水現日銀総裁は森首相の時に、健康が勝れず任期途中で辞任したい意向だったが、盟友小泉首相に交代してからは健康も良くなり、間もなく5年の任期を全うする。後任はインフレ目標値を宣言せよという圧力が掛かっている。これは当初 MIT(最近Princeton)のPaul Krugman教授を先頭に米国からの外圧だったが、最近では内圧になってきた。年率2-3%の物価上昇が日銀の方針となれば、今のうちにモノを買っておこうという心理が働き消費が増えてデフレが解消するという期待だ。但しインフレになればデフレ下で低金利で発行された国債は暴落する。速水総裁は本音では多分次のように言うだろう。「目標を宣言するのは簡単だが、政治が不良債権対策も産業構造改革もろくにやらぬ時にどうやったら2-3%が実現できるか教えて欲しい。宣言だけで踊るほど国民も企業もバカではない。」
しかしデフレ対策の歪が溜まりに溜まって、どこかで突然ハイパーインフレになりそうな気がする。それを密かに期待している人が実は多いことも心配の種だ。国債返済、担保不足、不動産の簿価割れ、保有株の含み損、生保の金利逆ザヤ、などが一挙に解決するからだ。その代わり庶民の蓄えがパーとなる大衆収奪効果を、日本は大戦後に実経験した。
素人の猿知恵がある。デフレが続いてどこかで爆発するより、もっと早めに確実に物価を押し上げる方法として、前年の物価指数下落率+1-2% 程度毎年消費税を上げてはどうだろうか。消費者や消費者としての企業には数年間にわたって約束された物価上昇になる。但し増収分は発行済み国債の買戻しに充て、吸い上げた金は市場に戻す。
戦後のインフレでの親の苦労と赤貧を思い出す私の過敏だろうか。以上