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うつせみ
2009年 7月25日
          シルバーシートと携帯電話

 電車のシルバーシート付近では「医療機器に悪影響があるので携帯電話の電源は切るように」とされている。そんなペースメーカ等があったら不良品に決まっている。悪影響があるはずはないと私は確信している。

 携帯電話が日本で普及し始めた頃、電車の中で携帯電話で大声で話す人が多く、はた迷惑だった。その頃は携帯電話で話をすることが何となく時代の先端を行くようで誇らしかったし、電車の走行音の中で話をするには大声になってしまっていた。本当は相手の話を聞く時にはマイクを指で押さえて走行音を拾わないようにすると相手の話がよく聞き取れる。話す時にはマイクと口を掌で覆ってマイクに近付いて話せば小声でも相手は聞き取れる。しかしそのような配慮なしに無遠慮に電車内で話す人が多かったから、まだ携帯電話を持たない乗客から苦情が殺到したのだと思う。

 だから「電車内で大声で話すと乗客に迷惑だから大声は止めて下さい」とか、大声小声は主観的できまりが付かないとすれば「はた迷惑だから通話は止めて下さい」とか最初から言えば良かったのだ。それを猿知恵で「ペースメーカに悪影響があるから」と言えば徹底し易いだろうと思ってそう言ってしまったのが曲学阿世の誤りだ。最初は電車内全部で携帯の電源を切るように言われた。私は技術屋の一人として最初からそんな馬鹿なことがあるものかと思った。因みに私の工学博士論文はコンピュータなどのディジタル回路中での誘導ノイズの電気回路理論である。実務上、誘導ノイズで悩まされた経験も、快刀乱麻解決した経験も、無数にある。

 かく言う私の常識を数値で証明出来ないのが残念だ。東芝在職中だったら、携帯電話の設計者とペースメーカの設計者にそれぞれemailを送り、放射電波強度と耐性電波強度を教えて貰えば一発だったのに。

 だが傍証はある。シルバーシートに坐る前に携帯電話の電源を切っている人を私は見たことが無い。のみならずInternetを使用している人は多いし、時々は話している人も見かける。これだけ電波を出し続けているのだから、もし医療機器に障害が発生するのなら日本全国で1件や2件不幸な事故が発生しても不思議ではないが、ついぞ聞かない。日本以外の国で携帯電話の電源を切らせる国を私は知らないが、外国で事故が起こったという話は聞かない。携帯電話以外にも電子レンジ、自動ドア、無線LANなど電波を出す機器は世の中に多いし雷だってある。一方ペースメーカを付けた人はシルバーシートにだけ居る訳ではない。一般シートにもホームにも歩道にもエレベータにも居るだろう。東京タワーのアンテナの真下を歩いても居よう。なぜ携帯電話だけ、シルバーシートだけが問題なのか。

 一度鉄道会社が専門機関に実験を依頼したら「ペースメーカの30cm以内で携帯電話が電波を出すと誤動作の可能性あり」という結論だったという新聞報道を見た。どの専門機関だったのか報道が無かったし、当然実験データの紹介もなかったから「やらせ実験だな」と私は解釈した。

 誤解している人が多いが、携帯電話は話してなくてもInternetを使っていなくても定期的に時々電波を出している。「私はここに居る」とシステムに報告して呼び出し場所を決めてもらうためだ。これをしないと携帯電話の呼び出しのために北海道から沖縄まで全国で一斉に呼び出しを掛けなければならないから、電波が幾らあっても足りない。電車が長いトンネルに入ったり、地下鉄が駅から離れると、基地局アンテナが遠くなるので携帯電話からの報告の電波が基地局に届かない。届いたという確認応答が貰えないから携帯電話は一層強い電波を出してみる。携帯電話の電波が届かない山奥に長時間滞在すると、携帯電話はありったけの大出力で報告しようと叫び続けるので、通話しなくても瞬く間に電池が消耗することはよく経験される。つまりもし電波が問題なら、通話とは関係なく電源が入っているだけで問題なのだ。特に電波の届き難い環境で最も問題のはずだ。それでも事故は起こっていないというのは強力な傍証だと思う。

 人々は知っている。シルバーシートで携帯電話の電源を切らなくても何も問題は起こりはしないことを。だから誰も切っていない。いいかげんなルールを作ると遵法思想が蝕まれる。愚かなことだ。       以上