新幹線で見た雑誌 Wedge7月号の「なぜ日本はiPadを出せなかったか」という特集は8割方同意できる記事だった。Apple CEOの Steve Jobsの優れたリーダシップを挙げて、日本の経営者は彼ほど詳しくもなくリーダシップも無いと強調した。それは事実だが、日本企業の事業部長・部長クラスがその役を果たせば済むことで、それが出来る資質の人は少なくないはずだから、それが「日本は出せなかった」理由にはなり難いと思った。
記事はまた、iPadの背後にあるiTunesという音楽などのメディア情報購入システムと、メディア情報の品揃えにJobs自らが折衝した経緯に言及する。Sonyは社内にある音楽部門に遠慮して、CDの売上に影響するオンライン音楽販売を強化出来なかったともいう。その通りだと思う。
白状するが私はiPadユーザではない。店頭で使ってみて面白そうだったから買おうとしたが、3つの理由で止めた。(1)未だに7-10日待ってと言われた。(2)私が「ああ、16GB, 32GB, 64GBとメモリ容量で3モデルあるんですね」と言ったら店員が「メモリじゃありません。ディスクです」と言った。主メモリがそんなに大きい訳ないだろう!! 二次メモリは東芝と三星のフラッシュメモリだと私は知っていた。素人老人にフラッシュメモリなどと言うと混乱するからディスクと言ったに違いない。その素人扱いに私は気分を害した。(3)\48k以上出してiPadを買っても私はあまり使いそうもない。680gは大抵の本より重い。Amazonが推進するKindleは280gだ。
iPadのハードウェアを見ると、フラッシュメモリの容量の割に価格が安い。大分買い叩いたのだろう。また台湾製のタッチパネルが優れている。大画面に不向きな投影型静電容量方式で9.7 inchを実現した。ガラスの両面に縦横の細い導線を印刷し、指を近付けると静電容量で導体から人体に微弱電流が流れるのを導線ごとに検知する。(1)精密な位置検知が出来て、(2)iPadの場合11本の指まで(なぜ10本でなく?)同時検出可能、という長所があるが、コストと配線の煩雑さで大きい画面には向かないはずを、よく克服した。だから指2本の動作で画面を拡大・縮小などの指示ができる。周囲の明るさで画面の明るさが変わり、また加速度検出器が内蔵されていてiPadを縦長(横長)に置けば表示も縦長(横長)に追随する。ハードウェアで珍しいのはこの程度で、仕様を与えられて作れない日本メーカは無いだろう。因みにiPadは台湾のFoxconn社が製造している。
iPadの内蔵ソフトは極秘だが、応用ソフトの第三者開発を奨励するためにインターフェースだけは公開されている。しかしこの内蔵ソフトも仕様さえ与えられれば作れない日本メーカは無いはずだ。
私は「仕様さえ与えられれば」と言った。この仕様が日本メーカでは出来ないのだと思う。iPadは全く新しいジャンルの商品だ。Browserやemailは動くがパソコンではない。電子書籍リーダは昔から開発されては消えたがそれだけではない。ゲームで遊べるがゲーム機とも言えない。音楽再生もできるが、それに限らない。これら全てを含めて、世の中のあらゆるメディア情報を引き出せる万能Viewerなのだ。日本企業の事業部からは決して出て来ない発想だ。人間工学研究室などがあれば出て来るかも知れないが、事業化に当たって事業部に売り込むのに苦労するはずだ。
たとえ日本企業にiPadの構想が生まれたとしても、その端末を大量に売り捌いて儲けるという事業計画を立て、安値競争に突入しただろう。iPadでは安値競争はありえない。極秘の内蔵ソフトは真似できないし、出来たとしても著作権で蹴散らせる。メディア情報も第三者ソフトもiTunesからしか買えない。メディア情報やソフトの第三者開発は歓迎だが、iTunesへの登録はAppleが生殺与奪の権を持ち、売上の3割はAppleが取る。
David Richie氏が New York Timesに3月末に批評を書いた。技術オタク"Techie"は、NotebookとSmartPhoneの他にiPadを買うはずがなく、もっと安いNotebookで同じことができると、かなり手厳しい。しかし"Techie"以外がパソコン等を使う目的の殆どはメディア情報閲覧だから、それに最適化したiPadは夢の機器で、Notebookの一部を置換するだろうという。
パソコン陣営にとってやっかいな商品が出現したものだ。 以上