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うつせみ
2007年 9月23日
             イラクの現状

 臨場感溢れるイラクの現場からの報告書のような本を読んだ。
「The Occupation, Patrick Cockburn, Verso, pp229」
著者は1950年Ireland生まれ、Oxfordを出て1979年からFinancial Timesの中東通信員。1991年の湾岸戦争でも2003年のイラク戦争でもイラクに留まった珍しい西側ジャーナリストで、今はWashington DCに住む。単行本だが2006年出版、2007年改訂で、最近のことまで書いてある。

 マスコミの報じるイラクと現場とは全く違うらしい。著者は長年のイラク経験で特別だが、そもそもジャーナリストは危なくて町に出られない。米軍首脳も民政官もイラク政府も、BaghdadのGreen Zoneと呼ばれる安全地帯に篭城していて外の世界にはうとい。米軍の発表もイラク政府の発表も米国内政局向けが強く意識されており、我々は米国民向けの説明をマスコミで見聞きする。憲法制定も総選挙も米国向けの茶番だという。

 イラクでの武力行使事件を米政府は、テロ集団vs米軍(多国籍軍)と位置づけているが、これがまず違っているそうだ。(1)占領軍としての米軍vs占領に反対するイラク国民、(2)Shia派、Sunni派、Kurd人の3勢力相互間の殺戮、(3)強盗が生業となった人口の跳梁跋扈、が現実だという。確かにSaudi人を中心とした若者がテロ実行犯になっているが、多くはal-Qaedaとは無関係で、7世紀のIslam主義に戻そうという原理主義者が異教徒の占領と戦っているのだそうだ。国民の支持支援がない限り絶対実行できないはずだが、今米軍を攻撃することに賛成の国民は、Kurd人でも16%、Shia派で41%、Sunni派では88%に上っている。(1)の主要手段は道路脇に仕掛けた遠隔操作の爆弾で、自爆テロは(2)が主体だという。

 Sunni派を柱としShia派とKurd人を抑圧し圧政を敷いた大統領Saddam Husseinを国民は恐れ憎んだので、それを倒した米軍を国民は歓迎した。しかし国民は勿論、戦う気もなく逃亡・降伏した一般の召集軍隊すら、米軍と戦って負けた意識は全く無く、自分達が占領される理由は無いと考えているらしい。第2次大戦直後の朝鮮人の心理に似ているのか。この点が第2次大戦後の日独とは異なると著者はいう。世界の歴史上、国民と対決した占領軍は点と線しか確保できず必ず泥沼戦に追い込まれる。日中戦争の日本軍、Vietnam戦争の仏軍・米軍、Afghanistanのソ連軍がそうだった。第2次大戦で米軍は原爆を使って天皇を動かしそれを避けた。(それに言及した久間防相は辞任した) 特に権力を奪われ少数派に陥ったSunni派の反発はすざましく、それを抑え込もうとする米軍は身内を殺傷する圧政者となる。治安回復に武力を使えば使うほど米軍はイラク国民から敵視され、新たな抵抗攻撃を招く。米国に取り入ったイラク人亡命者の多くは、1991年の湾岸戦争直後に鎮圧された反Hussein蜂起の亡命者で、その後激化した宗派間対立を知らず、国民感情から離れていた。また米軍を引き込みたい一心で楽観的な見解を米国に売り込んだ。結果的に米国にとっては、頼りにしていた亡命者の言い分が現実と異なり、また国民から敵視されて使いものにならなかったことが大きな計算違いであった。

 米軍は戦後処理はほとんど無計画だったという。Sunni派主体で支配層のBaath党員を全て追放したため、警察も学校も機能しなくなり、無政府状態で略奪者が横行し、新しい官職者は横領を繰返し、電力施設復旧予算も国軍の武器購入予算も雲散霧消して私有された。或るいは経験の無い米企業にコネで発注されて無駄金になるケースが多い。誘拐やバス強盗も日常茶飯事だ。職がないから$3-400で殺人を請け負う広告が貼り出される。悪事は何でもありの国に愛想を尽かして才覚のある人は皆出国してしまった。明らかにHussein時代よりも国民の生活は悪くなっており、改善の目途も無い。それもこれもみな米国が悪いと国民からの恨みを買っている。米政府に危機対応能力が無いのはKatrinaで実証済みと筆者はいう。

 Bush父大統領は湾岸戦争で軍事的勝利の最中に戦闘停止命令を出した。父大統領は息子大統領より数段賢かったことになる。Husseinは国力を超えた傲慢でKwaitを侵略して湾岸戦争を招いた。米国も国力を超えた傲慢でイラクに侵攻し泥沼にはまった。同じだと筆者は本書を結ぶ。 以上