Bush大統領が始めたAfghanistan・Iraq戦争は、過去と将来に米国だけでも3兆ドル=$3T (T=10^12)の負担を及ぼしているという本を読んだ。米国連邦予算1年分、日本の国家予算の3年分に近い。
Three Trillion Dollar War, J.E.Stiglitz & L.J.Bilmes, Norton, 2008
その25-30%がAfghanistanで、大部分はIraqだという。2003年3月19日のIraq侵攻の直前にBush政権の経済顧問が、Iraq侵攻には$200B (B=10^9)掛ると言った。Rumsfeld防衛長官はこれを一言の下に否定し、せいぜい$50-60Bだと反論した。戦闘に勝てば後は大してコストは掛らないという計算でこのような数字になったのであろう。
周知の通り実際には戦闘は瞬く間に終わったが、その後が大変になってしまった。私ですら当時それは予見できた。Iraq戦争中の米戦死者は139名、戦後2007年末までに3,749名、その後今までに4.4千人を超えた。
筆者は公開申請を含めて公開資料を縦横に読み込み、今後の展開に関してRealistic-Moderate Scenarioを描き、Afghanistan・Iraq戦争に関して次表のような米国だけの戦費の計算(単位$B)をした。堅めに計算したこれらの数字に基づき、直接コストは第5行の$2.68T→$3T、間接コストを含めれば第10行の$5-6Tと筆者は推定している。
項目 | 費用 $B | 備考 | |
1 | 2007年までの戦費 | 646 | 戦時手当、軍備、補給 |
2 | 2008-2017年の戦費 | 913 | 戦時手当、軍備、補給、撤退費 |
3 | 2008- 帰還兵の費用 | 717 | 戦死補償、負傷手当、年金、医療費 |
4 | その他 | 404 | 平時手当増分、募集費、情報収集費 |
5 | 小計 | 2,680 | 予算に計上されるコスト |
6 | 社会的コスト | 415 | 死傷者と家族が社会貢献出来ぬコスト |
7 | 原油コスト | 800 | 戦争で輸入原油価格上昇分 |
8 | 予算制約コスト | 1,100 | 戦費増額分を非軍事に使えばGDP増 |
9 | 利子コスト | 816 | 戦費調達の国債等の利子 |
10 | 大計 | 5,811 |
本書はBush政権最後の2008年に出版されたので、2007年末までの「過去」を第1行に、2008年以降の「将来」を第2行に記載している。2004年から2008年にかけて駐留軍の人員は15%増加しただけだが、1人当たりのコストは2.3倍になったという。最強戦闘部隊は帰国させ、予備役召集と州兵を正規軍に組み入れたので手当が必要になったのも一因だ。驚いたことにPrivate military security firmという軍事派遣会社からの派遣が急増し、派遣会社に$450k/(年・人)前後を払うとのこと。2007年末の正規軍170k人(k=10^3)を上回る196k人の派遣社員がAfghanistan・Iraqで兵隊として働いている。副大統領だったCheney氏が(副大統領になる前に?)社長だった派遣会社もあり、Cayman諸島設立のKBR社は税金も福利厚生費も不要で安価なため最大手にのし上がった。予備役召集に応じるより派遣会社に雇われた方が遥かに高給だ。但し「今」までに1%が戦死している。
第2行では2012年までにIraqの戦闘からは手を引き、Afghanistan・Iraqに数万人の常駐軍を残す仮定で2017年までのコストを計算している。
第6行は死傷者および負傷者の家族が看病のために働きに出られなくなった分のGDP減少を計算している。第8行は、再生産につながらない戦費支出が、もし国内で支出されたと仮定した場合のGDP増分だ。戦費のほとんどは国債などの借金で賄われたので、その利子が第9行だ。
本書は後半で、なぜこのような誤りが犯されたのかを論じ、また再び犯さぬために、議会による大統領への規制、借金で戦争することの禁止、正規軍以外の海外派遣禁止。兵士の福祉向上など、18項目を提案している。
米政府は最近Iraq駐留米軍が50k人を切ったと発表した。派遣社員は別勘定なのだろう。開戦以来の"Iraqi Freedom"作戦を9月1日からは"New Dawn"作戦とし、戦闘は止めてIraq軍の訓練と支援に徹する。
Bush父大統領は1990-91の湾岸戦争で、Kuwaitから敗走するIraq軍を殲滅した段階で唐突に戦争を止めた。子大統領は父を越える意図を持ってIraqに侵攻したとされるが、やはり父親が数等偉かったことになる。以上