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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2010年 7月10日
        日本がポルトガル化する理由

 先週の「うつせみ」で、日本はポルトガルのような世界の田舎になるから、個々人や企業は、居心地の良い日本で田舎暮らしを楽しむか、努力して世界に飛び出すかの二者択一だ、と書いた。これに対してお3人から「日本が再び発展する可能性はあるはず」とのご意見を頂いた。私もそれを希望するのだが国としては難しい。そのことを敷衍して置きたい。

 Lafcadio Hearn=小泉八雲は1904年=明治37年の著書Japan: An Attempt at Interpretation(Webで読める)のSurvivalという章で、「日本では「家」「ご近所」「氏族」の全体から個人は強制力を受け、個人の優越性や競争は抑制されている。個が育たず将来外国との競争で不利になろう」と予言した。幕府崩壊後まだ日が浅いので封建制のSurvivalだと八雲は書いた。以来百年経ってもこの傾向は本質的には変わっていないから、これは幕府体制の名残ではなく、人口密度の高い日本の農耕文化だと私は思っている。その特徴は、共存共栄主義と均質主義だ。世界文化を支配する狩猟的欧米文化の選抜主義と異分子尊重主義に対比される。その対比の好例が、羽田空港ビル鰍祀-Power電源開発鰍ヨの外資参加拒否である。

 製造業にも農耕的製造業と狩猟的製造業がある。典型的にはDRAMやLEDと、PentiumやiPadの対比だ。PentiumのMotherboardもiPadも台湾企業が作っているが、それを実質支配するIntelやAppleが米国に雇用と富をもたらしている。日本企業がかって成功した試しのない事業モデルだ。

 日本は1960-80年代に農耕的製造業で世界を圧倒し高度成長をもたらした。従来の製造業立国がもはや無理と悟った米国は、HP会長の名を冠した1985年のYoung Reportで、頭を使った産業で国興しをするという国策を決めた。それが2.5次産業のITベンチャ事業・狩猟的製造業であり、3次産業の金融立国だったのだと今では思う。BRICSの台頭で日本の国内製造業は成り立ち難くなった。1985年の米国と相似だがYoung Reportの引き写しは困難だ。世界の金融界は、均質主義の裁量行政があり英語が通じない東京を敬遠してアジアの金融センタをSingaporeにしてしまった。狩猟的製造業も世界的金融業も日本文化の中では育ち難い。日本が最も得意とする農耕的製造業をコスト面からBRICSに取られつつあることが惜しまれる。日本文化を踏まえた日本再成長計画が生まれることを私は切望し、可能性をゼロとはしないが、私は思いつくことができず悲観的になっている。

 いやそんなことはない、日本にも世界に通用する個人や企業がどんどん出て来ている、という反論がある。大賛成だ。意欲ある個人や企業は、日本文化だけでなく世界文化と呼ばれる欧米文化をも体得し、世界の舞台で活躍している。世界選手権での健闘のおかげで外国で活躍する日本人サッカー選手がまた増えそうだ。既に外人をTopに頂く日本発の国際大企業がある。Sony、日産、旭ガラスなどだ。タバコのJTはGeneveに国際本社を置く。これらの活躍が日本の名を世界に高める。しかしこうして世界に羽ばたく個人や企業は残念ながら少数派だ。日本の政治を決める選挙民の意識を変える効果は無いとは言わぬが遅々たるもので、国としての指向は八雲時代からあまり変わらぬ日本文化の中にあり続ける。6月の朝日新聞の世論調査では「ほどほどの頑張りで或る程度の豊かさ」を望む人が43%、30代だけとれば49%だった。運動会の徒競走で順位を付けることを嫌い、平和な業界を乱すMKタクシーは排斥される。チャンピオン企業育成よりも底辺企業の補助に、国際競争力強化よりも地域支援に力が入る。そうしないと次の選挙で負ける。そうならぬように私は清き一票を使うが、大勢は如何ともし難い。それを嫌う個人や企業は日本から実質的に出て行く。

 だから日本国は、国民大多数の意向に沿って国際化に背を向け、ポルトガルの如くかっての栄光から世界の田舎に凋落する可能性が高い。私は悲観論を言っているのではない。少数派かも知れぬが意欲ある個人や企業は国際化を進め、世界的存在として雄飛し日本の名を高揚するという楽観を持っている。今は海外売上1%の典型的な日本企業でしかない楽天すら、日本企業であることを止めて(画一的な世界企業を嫌い)多国籍企業になると宣言し、社内公用語を英語に変えたという。楽しみではないか。 以上