重力波検出施設KAGRA=KAmioka GRAvitational wAveの工事現場を80名の一行で見学する機会を得て、岐阜県飛騨市神岡町を夫婦で訪れた。正式名称は大型低温重力波望遠鏡だ。Neutrinoの研究で2つもNobel賞を貰ったKamiokande、Super-Kamiokandeで有名になった三井金属鉱業神岡鉱山跡の東京大学宇宙線研究所 付属神岡宇宙素粒子研究施設に併設される。なお役目を終えたKamiokandeは反Neutrino検出施設KamLandに改装された。
神岡は富山市と高山市のほぼ真ん中の山の中だ。北陸新幹線のお蔭で東京から富山まで最速130分で行ける。富山駅前に12:30pm集合、18:00pm解散のマイクロバス旅行なので、日帰り可能距離だ。しかし級友再会(生憎実現せず)と、久しぶりの金沢観光を狙って2泊の愛妻旅行とした。
神岡鉱山は奈良時代に遡る亜鉛・鉛・銀の鉱山で、2001年まで採掘していた。鉱山跡の空洞を拡張して純水を満たしNeutrino検出を行ったのがKamiokandeだ。空から降って来る宇宙線の多くは荷電粒子なので原子を通過する際に原子核(または電子)の吸引・反発によって飛翔コースが変化し散乱してしまう。一方Neutrinoは非荷電粒子なので原子をスイスイと通過し、地下にまで飛んでくる。ごく稀に水の水素・酸素の原子核に衝突してCherenkov発光したのを検出してNeutrino飛来を知る。偶々発生した超新星爆発で飛来したNeutrinoを検出し、Neutrino天文学の端緒を開いた業績で小柴昌俊教授が2002年にNobel物理学賞を受賞した。それで勢を得て隣に大規模に建設されたSuper-Kamiokandeでは、Neutrinoに質量があることが実証された業績で2015年に梶田隆章教授がNobel物理学賞を受賞した。
一方、KAGRAは重力波の検出が目的だ。Kamiokandeに近い山裾の地下200mに、1辺3kmのL字型のトンネルを掘り、直径80cmの真空パイプを通した。終端とL字の要近くに-253℃=20°Kの単結晶Sapphire製の22cmの鏡を(大地の振動から隔離のために)14mの多段振子に吊るし、Laser光線を500回往復させた上で取り出す。L字型の2辺から戻って来た光線を相互干渉させ、通常は相殺関係にしておく。重力波が来ると、3kmが微小に変化し、相殺関係が崩れて信号が検出される。Laser光線は安定性から選んで波長1um余りの赤外線だ。一般向けパンフの記述では重力波による距離の変動比は10^(-21)ほどと解釈出来た。3kmを500回往復させれば3x10^(-15)mほどの変動になる。それを1um波長で検出するのは至難の技だ。 エレベータで地中に入るのかと思ったら、急斜面に開いたトンネルに水平に入って500m行くと地中200mに潜ったことになるのだった。そこに宇宙線研究所長である長身でカッコ良い梶田教授が待っておられて、ご挨拶の後にご一緒に個別写真撮影の時間となった。見学者は列を作ったが、私共は遠慮した。Nobel賞受賞者と並んで撮っても自慢になる訳でもなく、大先生をタレント扱いした自分に気が咎めるのがオチだ。そこから排水のために10m/3kmの上り坂の3kmのトンネルが直角に2本あるのを見学した。
坑道を使う訳でもないのになぜ神岡かと尋ねたら、(1)飛騨片麻岩の安定な岩山であること、(2)Kamiokandeのインフラが使えること、並びに(3)Neutrinoの観測場所と近いので相互検証の誤差が小、とのことだった。 KAGRAの予算百数十億円の目途が付いたのが2010年で、今は工事中だから見学できたが、各メーカから機器ブロックが納入されて来てつなぎ込みの段階だった。その間米LIGO[laigo]グループが昨2015年秋に、2つのBlackholeが合体した際の重力波を観測したと今年2月に発表した。米Washington州とLouisiana州に2組、11億ドル掛けて2002年に稼働したが何も観測できず、改造して2015年に再稼働したら早速観測できたそうだ。
KAGRAは、世界で初めて重力波を検出してNobel賞を取る意気込みだったが、地表に建設されたLIGOで意外に容易に検出されてしまった。またNobel賞はNeutrinoで梶田教授が貰ってしまって、2つとも当てが外れたそうだ。しかし望遠鏡は幾つあっても有効に研究に使用できるという。
お土産に、トンネル掘削で出た片麻岩を砕いた砂を使った砂時計を頂いた。「落下時間に変動があったら重力波の影響かも」と書いてあり、大笑いした。有名な巨大物理実験装置を見学できて大満足だった。以上