知らない方から自筆のお手紙付きで本が送られてきた。東大法学部を出てから工学部も出たという経歴が書いてあったから、どこかでお会いしたのかも知れないし、或いは同窓会名簿だろうか。ご自身の著書ではなく、「復活の法 大川隆法 幸福の科学出版 07/1/1初版 07/2/22第10刷」
であった。自分では絶対買わない本だが「布教で徳を積む」真面目な精進には、賛否は別にして一読して応えよう。新興宗教「幸福の科学」の名も大川氏の名も記憶にはあったが、氏がその創立者・総裁とは初めて認識した。大川氏は1956年徳島生まれ、東大法学部を卒業して、商社トーメンに入社しNew Yorkで勤務する一方、New York市大で外国為替を学ぶ。1981年に半ば眠りつつ無意識に文章を書く「自動書記」で霊界と通信できるようになり、やがて自由に霊と話せるようになり、霊との対話で悟りを開いた。1986年に退社して西荻窪で立宗、1991年に宗教法人となった。霊との対話を認めなければ大川氏は大法螺吹き、認めれば大預言者であろう。
大川氏の最大の特徴は、やはり霊との対話が自由にできるとする点だ。1985年以来、日蓮・空海など仏教関係者、モーゼ・キリスト・内村鑑三などキリスト教関係者、天照大神など神道関係者、孔子・孟子など中国の思想家、その他リンカーン・ニュートン・ベートーベン・紫式部・勝海舟などの歴史上の著名人など合計数十名の霊が、「チャネリング」といって大川氏の口を借りて語ったとされる霊言集が多数出版されている。従って大川氏は様々な宗教に通じている様子だが、「一番深い宗教」と大川氏が言う仏教の輪廻の思想、特に死後の霊の世界が強調されている。
内村鑑三氏の孫弟子で仏文学東大教授の前田陽一氏の聖書研究会に昔しばらく通ったことがある。故前田氏は仏語のRの発音が出来る当時珍しい日本人だった。氏は「聖書の内容は永遠だが、2千年前に書かれた表現は現代の表現とは異なる部分がある」と言われた。これが私の聖書の理解を大きく助けた。しかし大川氏は現代人だからこの問題は無い。科学的な内容もとりまぜて現代人に分かりやすい表現になっている。むしろ現代の問題多き社会に生きる人生訓に溢れている。例えば「親不孝をした」と自分を責めていると癌などの病気になり易いから、気持を切り替えて親孝行をして挽回せよとか。足を使わないと連動して目が弱り、読書しなくなるとボケるから、努めて足を使い小さい活字は避けなさいとか。
本書のまえがきで大川氏は「私自身は、すでに、...歴史上の釈迦やキリストの悟りを超えたという、はっきりした自覚と自信を持っている。世界の人々が、この事実を認めるのは数百年後」と言い切っている。
人は死ぬと肉体は滅びるが、霊は霊界で生きると氏はいう。生前にも霊界でも、功徳を積めば霊は救われ悩みの無い霊界生活を送れる。この真理を認めたがらない頑迷な輩が、インテリ、唯物論者、科学者に多いという。「肉体が自分」と思っている人は、肉体が無くなった霊界でも肉体の痛みや煩悩に悩まされ、肉体を持つ人間にとりついたりするそうだ。
この世が3次元世界であるのに対して、氏は4次元から9次元の霊の世界を想定している。ただそれは理科系の「次元」の概念とは異なり、単により高度な倫理を持つ世界という意味である。4次元幽界は死後最初に「還る」世界。心が清らかならば幽界から5次元善人界に上る。心の清らかさとは、(1)他人に役立っている実感があり、(2)今死んでも幸せな人生だったと言えること、だそうだ。友人が美人と褒められたら嬉しい人は善人界だという。その上で仏法真理を体得でき、他人に愛を教えられば6次元光明界、世のためになる仕事なり布教なりを実践し奉仕を喜べれば7次元菩薩界、その上で多様な教えを広く体得し同時代人が見えないところまで見渡せて多くの人を感化できる度合いに応じて8次元如来界、9次元大如来界に達するという。輪廻における過去世(かこぜ)、現世、来世にかけて修行を積めば、より高次元に達することができると、その具体的な人生訓が述べられている。人は動植物を殺して食べ、他人との競争に勝つ罪を犯して生きるが、それを贖えるだけの徳を積む必要があると。
やはり大法螺吹きか大預言者かどちらかだが、私は即断しない。 以上