気象観測史上かって無かった水害が起こった。13府県で死亡者と行方不明者が250名を越えている。大変お気の毒なことだ。日本列島上に線状降水帯が出来て、その線上で豪雨が降り続いたと報道された。線状降水帯ってどういう現象なの? 分からないからWebで調べてみた。
線状降水帯の現象は昔から学界では知られていて、米国では現象別の分類まで行われて来たが、日本で言われるようになったのは比較的最近で2014年以降だそうだ。道理で耳新しい。学界での定義は、「線状の集中豪雨であって、大きさは, 幅20〜50km,長さ50〜200kmであり,数時間以上ほぼ同じ場所で降る」だという。日本の過去の集中豪雨を調べた論文があって、台風による豪雨を除くと三分の二は線状降水帯によるものだったそうだ。その実体は一列に並んだ積乱雲=入道雲だそうだ。
積乱雲は飛行機から見たり、遠方から見ると白く輝く入道だ。直下から見ると黒雲だ。下層の暖気と上層の寒気の入れ替わり調整の過程で形成される。上昇気流が高度 5〜20kmに達し、水蒸気が冷やされて氷晶となり、周りの空気を巻き込みながら下降し下降気流となり、氷晶が溶けて夕立や豪雨となる。氷晶を含む上昇気流と、同じく氷晶を含む下降気流が衝突し摩擦して雷を生じる。最初は上昇気流が強く、やがて平衡し、下降気流が強くなって衰退する。強い下降気流は竜巻に発達することもある。
線状降水帯の発生メカニズムは多種多様だが、その1つは次のようなものだ。まず寒暖差のある気団が接する前線が発生する。上空から見て前線に垂直に近い角度で暖気が押し寄せると、比重が軽い暖気は寒気の上にのぼり、積乱雲が前線に沿って破線=点線のように幾つも生じる。これをDotted Line Typeの線状降水帯というそうだ。
今回の水害の線状降水帯は異なる。まずフィリッピン方面に台風7号があった。台風が巻き上げた上昇気流が東に流れ、上空で冷やされて下りて来た位置、つまり日本列島の南東側に、強い暖気系の夏型高気圧が居座った。大陸から張り出した寒気系の高気圧と日本列島上で接して、列島上に前線を作った。高気圧は時計回りの渦となるから、前線では風がすれ違う。しかし偏西風が加勢するから、暖気高気圧からの南西⇒北東の風が支配的になった。海からの暖かい湿気を含んだ空気が前線沿いに南西から供給され、そこで積乱雲が次々に生まれ、成長しつつ前線に沿って北東に流れて行った。これをBack-Building Typeの線状降水帯というそうだ。
地球温暖化で海水温が上がり、接する空気の温湿度が上昇したため、台風が大型化した。台風のエネルギー源は海面上の空気の熱量と、水蒸気が雨に変わる際の潜熱だからだ。大型台風7号の上昇気流が強い高気圧を生んだ。その高気圧が時計回りに、日本列島上の前線に湿った暖気を送り込み続け、前線沿いに積乱雲を次々に生んで線状降水帯を構成した。
地球温暖化対策は難しい。他人全員が対策に金と時間を掛け、自分は何もしないのが一番自分の得になるからだ。地球温暖化論は、国の弱体化を狙った策謀のデマだと主張して票を稼いだ大統領も居る。
ついでに、高気圧がなぜ時計回りの渦になるかを、コリオリ=Coriolisの力で説明しよう。北半球に住む我々は、反時計方向に回る円盤の上に居るのと同じだ。円盤上の投手が円盤中心の捕手に投球すると、回転方向に慣性を持つ球は進行方向の右に流れて捕手から見た左手側に届く。投手が円盤の中心に居る場合には、球が飛んで行く間に捕手が回転移動するから、やはり捕手から見れば左手側で受ける。色々な思考実験をしてみれば分かるが、投手と捕手が円盤のどこに居ても、球は進行方向の右に流れる。同様に、北半球では高気圧から流れ出る風は右に流れて時計回りの渦になる。低気圧に流れ込む風も右に流れて、低気圧の中心よりも右側に向かうから、反時計回りの渦になる。南半球では反対になる。
台風の風は反時計回りだから、海からの湿った風が山脈の東側に当たって豪雨をもたらす。今回の豪雨は、高気圧の時計回りの風が海から湿気を運んで来たから、山脈の西側の降雨量が大きかった。高尾山や八ヶ岳の東西でもそれが分かる。それにしても被災地は真にお気の毒だった。 以上