「ライブドア監査人の告白 田中慎一 ダイヤモンド社 pp234」を読んだ。私は1年前の盲象的な新聞報道から全体像を推察してライブドア社LDの行動を読み解き3月に「うつせみ ライブドア」を書いた。本書によれば、1年前の私の理解は幸い正しかったが、より詳細が分かった。
LDは2004年9月期の連結決算で、自社株売却益35億円と、子会社化中の2社への空売りで15億円の経常利益を積んだ。自社株売買益は資本勘定であり、損益に入れてはいけないのだが、クラサワ社とWeb Caching社(以下KW)の買収に際し、自社株売買益を損益に入れる奇策をLDは発明した。
1.LDは新株を発行し株式交換でKWを買収した。
2.投資事業組合Bが、旧KW株主に渡ったLD株を一定株価で買上げた。
3.LDは株式の100分割を行い、99倍の株式が印刷されて市場に届くまでの数十日間株式の供給不足を生じさせ、株価を吊り上げた。
4.(2.の買上げには時間が掛かるので)堀江氏が組合BにLD株を貸付け、組合BはLD株を現物出資して組合Cを作り、組合Cは香港で高値のLD株を売却し差益を得た。2.の買上げが完了して堀江氏にLD株を返却。
5.差益は出資関係を遡って組合C→組合B→組合A→LDファイナンス社LDFに分配金として還元された。LDFはLDの連結会社だ。組合B/Cには第三者の出資者兼組合運営者がいたが、その出資額は名目的で小さいため、出資額比例で組合Cの得た差益の大部分はLDFに「投資益」として還元された。
LDマーケティング社LDMがMoney Life社を買収した時も同様だ。
1.組合Cが現金でMoney Life社の全株を買い取った。
2.LDMが「株式交換」の名目で新株を発行し、組合C所有のMoney Life社株と交換し、LDMによるMoney Life社買収が完了した。
3.LDMが株式の100分割を行い、また実際は既に買収していたことを伏せて新たに「Money Life社を買収」と発表し、LDMの株価を吊り上げた。
4.組合Cは、香港でLDM株を売却し差額を得た。差益は出資関係を遡って組合C→組合B→組合A→LDFに分配金として約6億円が還元された。
この自社株売買で利益を積む裏技は、意図的には完全に犯罪だ。しかし組合が本当に第三者なら違法ではない。通常の監査では監査人がどう逆立ちしても3段重ねの組合の先での活動を暴くことは不可能、つまりバレっこないし、例えバレても組合の運営者は第三者だから合法と言い張れるとLDは考えていたに違いない。スイス金融機関系コンサル会社が知恵を付けた可能性を本書は示唆しているが、例えそうとしても、それを理解し実行するには相当優秀で緻密なな知能が必要だ。
しかし検察は捜査権を以ってemailを押さえ、組合が実質的にLDの支配下にあったと判定した。そうなれば自社株売買益であるから資本勘定となり、損益に積むのは粉飾だ。空売り部分は勿論明白な粉飾だ。
上場以前からLDを担当してきた港陽監査法人に会計士の著者は参加し、どうも怪しいとの認識からLDの監査担当となった。その時点は上記粉飾の後だったが、色々調べてもシッポを掴めず、5月連休中にLDの子会社の経理代行をしていたコンサル会社を、子会社監査の名目で訪れ、見るはずではない資料を盗み見て上記組合の存在と出資関係を知り、不正の可能性があると詰め寄って、LDの監査役と協力して組合を2005年7月に解散させた。著者は検挙を免れたが、前職者は検挙された。筆者は「責任を感じて」(検察に協力し過ぎて居づらく?)会計士の資格を返上した。
著者は堀江氏について「純粋で真面目な若者」「カネにそれほど執着がない」「会計にうといと自称するが実は詳しい」と書いている。本書から私の推察は次の通りだ。堀江氏は宮内氏に無理な利益造出圧力を掛けた。自社株の細工について宮内氏は「ギリギリ合法」と説明し堀江氏はそれを信じたと思う。空売りについて宮内氏は「危ないですよ。やりますか?」と念を押したという。だから宮内氏とすれば「全て堀江氏の指示」であり、堀江氏にとっては「宮内氏に一任していた」ことになるのだろう。「理解不充分だったが私の責任です」と言った方が刑も軽く、再起の際の人気も得られると、すぐ責任を取ってしまう私は思うのだが。 以上