磁気再結合という物理現象を去年初めて知った。ウィキペディアにもある。馬蹄形永久磁石A, Bの2個があったとしよう。磁力線はそれぞれのN極からS極に流れている。この2個の磁石を互いに引き合う向きに近付ける。即ちAのN極とBのS極、AのS極とBのN極が近付く向きとする。するとAのN極から出てAのS極に流れていた磁力線の一部がBのS極に流れる。このような磁力線のつなぎ替えを磁気再結合という。ここでの再結合は、つなぎ替えのことだ。それがなぜ面白いかはプラズマとの関係にある。
プラズマは固体・液体・気体と並ぶ第4の状態だ。典型的には気体を高温に熱すると生じる。原子が陽イオンと電子に電離し、熱エネルギーで高速に飛び回る。荷電粒子が飛び回るから電磁界が生まれる。電磁界があると荷電粒子は影響される。つまりプラズマと電磁界は相互作用を持つ。磁場だけを考えると、プラズマの荷電粒子は磁場の中で位置のエネルギーを持つ。そこで磁気再結合で磁場が変わると、位置のエネルギーが運動エネルギー、つまり熱エネルギーに替わる。勿論その逆方向の反応もある。
太陽の表面温度は6千度だが、太陽上空のコロナガスは100万度に達するという。太陽の大気であるプラズマの中で磁気再結合が起こり熱エネルギーが上昇した結果だそうだ。太陽の磁気は複雑でよく分かっていないという。黒点の近くでよく起こる太陽フレア=太陽面爆発で吹き上げられた炎が弧を描いて太陽面に戻り、弧状の取手のような形になる現象はよく写真や挿絵などで見かける。炎状のプラズマが磁力線をコイルのように巻きながら進む。あの弧は磁力線なのだ。因みに太陽フレアを含めて太陽面から放出されたプラズマは太陽の大気となり、皆既日食の時に発光と散乱光で雲のように周囲が光る現象がコロナと呼ばれ、従って太陽のプラズマ大気はコロナガスと呼ばれる。コロナガスは高温だから、荷電粒子は太陽の引力に逆らって飛び出すことができる。それが太陽風だ。
太陽の光は8分で地球に到達するが、太陽風は2日ほど掛かって地球にも到来する。太陽風の荷電粒子は地磁気に捉えられ、地磁気の磁力線の周りをコイルのように巻きながら北極と南極の周辺に下降する。そこで地磁気の磁気再結合が起こると、荷電粒子の運動エネルギーが高まり、地球大気の窒素や酸素に激突して励起させるから、これらが発光してオーロラとなる。太陽フレアが活発な時には太陽風も強くなり、極地ではオーロラが盛んに観測される。太陽風に飛ばされて反対側に長く伸びていた磁力線が、荷電粒子との相互作用でより地表に近い位置で短絡的に再結合する磁気再結合が起こっている。オーロラは磁気再結合のお陰だそうだ。
実はお付き合いのあるNPO法人の理事長が実験物理学の世界的権威だ。プラズマの中で磁気再結合を人工的に起こす実験装置を計画され、20年前に稼働して以来画期的な論文を次々に発表された長年の功績が認められ、2015年11月に物理学者垂涎のMaxwell賞を受賞された。電磁気学のMaxwellを記念した賞だ。それを祝う短文を書いてくれと言われて、ウィキペディアと首っ引きで辛うじて理解してお役目を果たした。今月また理事長が一般向けに講演をされた。難しい話だと困るなあという心配を他所に、太陽フレアやオーロラなどの珍しい美しい写真や動画が満載の綺麗で楽しい講演だったのはさすがだった。その講演会開催の報告記事を書いてくれとまた頼まれて、再びWebで勉強し直しつつ書き下ろしてご本人に添削してもらった。つまり私としてはかなり勉強させて貰ったことになる。
講演はプラズマつながりで、放射線汚染がほとんど無い夢のエネルギー源の核融合にも及んだ。私が就職した1959年には、事業部に配属された同期には原子力発電に携わった人が多く、研究所に行った人は核融合に取り組んだ。そのうちに彼らは、核融合は20世紀中には無理だと言い始めた。今一番進んでいるのは南仏の国際実験炉ITERで、欧(45%)印日中露韓米で 今までに$14B(B=10億)を投入した。2020年にプラズマ実験、2027年に核融合実験を開始し、最終的には50MWの電力を投入して500MWの発電をする計画だ。Tokamak型で、1億度以上のプラズマを磁気でド−ナツ状に閉じ込めるのだが、磁気再結合がここでは外乱要因だという。 以上