9月19日に八ケ岳西麓で見た中秋の名月は見事だった。実は前日18日夕照の八ケ岳連峰に浮かぶ真っ白い満月らしい月に感動した。その夜TVが、翌日19日が中秋の名月で20時13分に満月だと言った。19日は37分遅れた月が漆黒の八ケ岳連峰阿弥陀岳の岩壁の点光源から丸く出たのを見た。
八王子の床屋のお兄さんが「中秋の名月は綺麗でしたね。今度見られるのは8年後だそうですね」と言った。確かTVでそんなことを言っていたが、何のことか判らなかったので、曖昧な応答しか出来なかった。悔しくて直ぐWebで調べたが「孫引き」ばかりで理解して記載した頁には辿りつけなかった。あちこち調べてやっと理解できたのでご報告する。
まず地球の公転周期は 365.242190日だ。だから4年に1度閏日を加えて 365.25日、100年に1度閏日を止めて 365.24日、400年に1度は止めないから 365.2425日となり、残る誤差は3千年に1度の特例処理とする。ところで近年時々年末に閏秒が加えられるが、これは標準時を決めている原子時計と、地球の自転の誤差の修正であり、暦には関係しない。
月の公転周期は恒星(宇宙)座標から見て 27.32日であるが、その 27.32日分の地球の公転角を加えて、地球から見た月の1回転は29.53日となる。だから太陰暦では29日の小の月と30日の大の月がほぼ交互に来る。12ヶ月では 29.53 x 12 = 354.36日となり、地球の公転周期には約11日足りないから、ほぼ3年に1度閏月を加える。
地球も月も厳密には楕円軌道なので月の動きは一定ではない。しかしその誤差を捨象して平均化し一定速度で変わると見なすことにする。
地球から見て恒星を座標とする太陽の位置は地球の公転によって移動する。1年で1回転する見掛けの軌道を黄道と言い、春分(地球から見た天空の赤道と黄道の交点)を0度として360度を目盛り、黄道と垂直に経度を引いて黄経と呼ぶ。同様に月の見掛けの軌道を白道と言う。黄道と白道とは5度余りズレている。即ち地球の公転面と月の公転面が5度余りズレている。もしズレが無く同一面上なら、毎月日蝕と月蝕が起こることになる。太陽と月が同一黄経にある新月の状態と時刻を「朔=そ」と呼び、太陽と月の黄経が180度差になる満月の状態と時刻を「望=ぼう」と言う。
月の姿を月相と言い、新月を0、満月を14、次の新月を28=0と28段階で表す。一方或る月相の月齢とは、新月=朔をゼロとしその月相に至るまでの日数を言う。満月=望の月齢は 29.53÷2 = 14.765 ≒ 14.8日である。(後日ご教示頂いた。平均は14.8日だが実際は13.9〜15.6日だと)
日本では明治5年末まで天保暦という旧暦を用いていた。翌年閏月が必要になり、官僚の月給を13回払うのを避けるため年末に急遽太陽暦を導入したと言われている。天保暦は次の規則で運用されていた。
旧暦の秋は7月8月9月なので、8月15日の月を中秋の名月という。朔が8月1日午前0時なら、望は14.8日後の8月15日18時過ぎとなるから、中秋の名月は満月だと言える。もし朔が1日の正午なら、望は16日6時過ぎとなり、朔が1日の24時なら望は16日の18時過ぎとなる。過去3年連続して望が8月15日に起こったが、今後しばらくは16日に望が起こり、15日に戻って来るのは8年後の2021年だというのが正確な表現だと理解した。しかし私は今年9月18日(旧暦8月14日)の月を満月と思ったほどだから、望が旧暦8月15日だろうが16日だろうが、天文学者以外にはほとんど関係ない。
床屋のお兄さんには次のように応じるべきだった。「そう言われてますね。当分は厳密には中秋の名月の翌日が満月になるようですが、素人目には1日前でも満月に見えますよ」 2021年の旧暦8月15日に起こる望が、昼間で見えないのか夜なのかを私はまだ知らない。 以上