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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2006年 6月10日
            村上ファンド

 村上世彰(よしあき)氏が逮捕され、マスコミで叩かれている。ニュース第一報を聞いて私は、これはホリエモンよりも明確に有罪になると思った。マスコミは「過度の金儲けが悪い」という記者の深層心理の上に、クソミソ一緒に非難するから、一般の人の中には村上氏を稀代の悪党と捉えている人が多い。悪党かどうかは個々人の判断に委ねるが、事実関係を    A:株主価値向上指向    B:利益造出指向    C:不誠実    D:証券取引法違反 くらいに分類して整理してみる必要があると感じた。

 A:株主価値向上は村上氏の表看板で、本音は金儲けだけだったのかも知れない。しかし額面通り受け取っても、村上氏の株主価値向上は問題を含む。氏は含み資産が多いなど実力以下の株価になっている会社の株を買占め、会社に乗り込んで株価向上の施策を迫った。問題は、含み資産を売却して株主に配当すれば「株主価値向上」になるのかという点だ。一時的には株価向上は間違いないが、正確には「短期的一時的株主価値向上」を主張しつつ「株主価値向上」とだけ言う氏の絶妙な修辞法だ。

 日本の企業風土は、中長期を犠牲にした短期的利益を嫌う。それに会社は従業員のもの、社長のもの、我々のもの、という意識が強いから、その資産を売却して株主に分け与えるなどもっての他だ。そこに会社は株主のもの、という理念で切り込むと嫌われるのは当然だ。しかしこういう刺激があって初めてバランスがとれる点は評価しなければならない。鰹コ栄は、村上氏に突かれた結果、会社が改善されたと言っているそうだ。

 B:利益造出指向に関して、村上氏個人が何千億円も儲けたという誤解があるが、勿論儲けたのは村上ファンドと総称される数個の基金に、儲けを期待して金を預託した出資者だ。村上氏を中心とする30名は、基金が儲かれば手数料と報奨金をガッポリ貰えるが、逆に損をすれば、村上ファンドの場合は知らないが一般的には、一定の賠償責任を負う。

 TVに出た街の声で「我々は汗水たらして働いているのに」というのがあり、氏は「金儲けは悪いことなんでしょうか」と応えていた。額に汗して働いた対価は勿論尊いから、日本では伝統的にそれ以外の金儲けを卑しむ傾向があるが、世界標準ではない。損するかも知れないが得を期待して投じた金から来る儲けを否定してしまうと、事業投資は成り立たない。

 ただ儲けの原資が何かには注目したい。村上ファンドが刺激剤となって会社の業績が上がり会社価値が上がったのなら、その一部を村上ファンドが得るのは何の問題も無い。しかし会社価値は変わらないのに株式市場から金を吸い上げて儲けただけとなると、これは大衆収奪である。

 C:不誠実は随所にある。塩漬状態だったニッポン放送株を高めるため、LD=LiveDoorとFuji-TVの双方にTOBを持ちかけて競わせたという。LDには「17%持っているから、33%取れれば経営権を取れる」と売り込んだそうだが、LDがその積もりで買い集めたら村上ファンドの株は3%ほどに急減していた。LDの前幹部はこの裏切りを恨んでいる。出資者から利益を期待される立場のファンドが、株を売らないで保持して貰えると信じたホリエモンが何だか可愛く見えてしまう。なぜ契約するなり、裏切ったらInsider取引をタレ込みますよと牽制しなかったのだろう。ここまでは、大変不誠実だが法令違反は無く、同程度の不誠実さは世間では珍しくない。

 D:証取法違反は、氏の筋書き通りLDが大量(5%以上)の株を買うと決めた事実を知って以降も、よせばいいのに欲をかいて買い続けたInsider取引だ。「プロ中のプロがうっかりした」と村上氏は「聞いてしまった」ことを自省して見せたが、嘘だろう。LDが強制捜査されずタレ込みもしなければ、このInsider取引は捕まらなかったと思う。本当は強制捜査を予期しなかったことを「プロ中のプロ」として悔やんでいるに違いない。

 村上氏は確かにワルで憎まれ役だが、突き詰めてみると、いわゆる刑務所の塀の上を不誠実に歩いて中側に落ちたようだ。       以上