今ナラの木だけが選択的に広範囲に枯れている。八王子の我が家の裏山は自然豊かな都立長沼公園なのだが、毎朝のジョギング道沿いだけでも、20本以上のナラの大木の葉が茶色に枯れていて無残だ。ラジオ体操の広場で樹冠を見回すと、勢いのある緑の中に3本の枯れた大木が目立つ。近寄って見るといずれも、幹に小さな穴が多数あいている虫害だ。鋸屑のような木粉(正式名Frass)が根元に拡がる。聖蹟桜ケ丘にある東京都公園事務所に電話で尋ねてみたら、10kmも離れた桜ケ丘周辺でも同じ病害が拡がっているとのことだった。最近ドライブした体験では、八ヶ岳周辺では被害は皆無だったが、伊豆の山は、八王子ほど深刻ではなかったが、葉が茶色の木が点々とあった。これはパンデミックだと気付き勉強した。
「ナラ枯れ」と呼ぶ病害だと知った。カシノナガキクイムシ(樫の長い木食い虫?略称カシナガ)という5mm弱の羽のある昆虫が、ナラなどに孔を開けて入り込む。その昆虫と共生関係にあるアンブロシア菌(通称ナラ菌)とやらが持ち込まれ、その菌が樹木の中でカビを作り昆虫の餌にする。そのカビが、水と養分を吸い上げる導管を塞いで枯死させるとのことだ。
ナラ科とかいうものは無くて、薪に使うブナ科の落葉樹を、植物学以前から昔の人はナラと呼んでいたようだ。地上1mほどの所で伐採して薪木を採ると、そこに複数の若芽が出て何年か後にまた薪木が採れるという営みだったようだ。上記カシナガは、ナラは勿論、カシのようなブナ科の常緑樹も含めて、ほぼブナ科全体に入り込むそうだが、枯死するような重症になるのはナラの範囲だという。特に被害が大きいのが、ブナ科コナラ属の仲間で、コナラ、ミズナラ、クヌギだ。カシナガは、ナラの枯れ木で最も繁殖するが、ナラの古木つまり大木がそれに次いで好みで、若木は被害を免れ易いという。実際直径50cm以上の大木に被害が目立つ。
公園事務所の話では、対策は伐採あるのみだが、或る年に葉が枯れても翌年は緑の葉を出し生き返ることもあるので、慎重を期しているという。実際私は昨2020年夏に、ジョギング道で直径30cmほどのナラの根元に鋸屑が拡がっていることに気付き心配していた。葉は茶色になっていなかったが元気がなかった。ところが今年の夏には元気な緑の葉を出しており、鋸屑も見当たらない。全てこのようにうまく生き返る訳には行くまいが。
長沼公園で鋸屑を吹いているのはコナラとクヌギ、それに中間的な特徴を持つ木は交雑種なのかも知れない。丸いドングリを付けるクヌギの葉は船型で細長い。幹は茶色でサメ肌だ。長いドングリのコナラの葉は、十字架型の骨に貼った奴凧のようで、短い2辺と長い2辺で構成される四辺形に丸みを付けた形だ。幹は白めで縦縞が強い。長沼公園のジョギング道沿いのナラ1本1本の状態を書き留めて置きたいと、地図と鉛筆を持って出掛けたが結局諦めた。判ったことは、@ナラは無数にあり記載しきれない。A枯れたナラが目立つが、本数で言えば少数派で、元気なナラの方が圧倒的に多い。B茶色の枯れ葉の枝から緑の葉が出ていたり、根元から幹が分かれている場合に、特定の幹だけ枯れていて他は元気なのが目立つ。
しかしWeb情報によれば、ナラ枯れは一旦発生すると数年間で直径30cm以上の大木は枯らし盡すというから、現状で終息するはずはない。若木は樹液が勝り、カシナガを窒息させるそうだ。根元に水が豊富な若木は、特に強いという。カシナガは、幼虫がナラ類の幹の中で8月から翌年5月までを過ごし、5-6月に蛹となり、6-8月は繁殖のために成虫となって新たな大木に取り付く。予防手段は@に12cm間隔で穴をあけてナラ菌の殺菌液を注入、A表面に粘着剤・殺虫剤を塗布、またはBビニールシートを巻いてカシナガの侵入防止、などだ。自宅から8km南西の多摩ニュータウン都立長池公園事務所で聞くと、目の細かいネットで覆う予防策もあるとのことだったが、樹皮を食い千切って侵入するカシナガにネットが効くかなあ。
長池公園で、被害樹の周辺を「カシナガほいほい」というテープで、粘着面を内側にして覆っているのを見掛けた。飛び出して来た成虫を捉える作戦だという。被害樹に薬液を注入して殺菌殺虫するとか、フェロモンでおびき寄せて焼却するとかもあるが、伐採焼却が一番確実のようだ。以上