「英ナビ!」の「英語力とQOL=Quality of Lifeの関係性調査」で、50歳代男性の年収を調べたら、英検準2級の人の年収は平均618.6万円、英検2級で788.5万円、英検準1級で879.1万円、英検1級で1,114.6万円という結果だったという。英会話を学ぶ意欲と能力のある人は、英語と無関係でも仕事が出来る可能性が高いだろうから、英語だけではなかろうが、英語が出来れば仕事の幅が拡がるから、相関はあると思った方がよい。
私のQOLの柱の1本は、平均より少し良い英語力だと思うが、近年は帰国子女やNear-Nativeの若者が増えて来て、劣等感を感じることもある。最近母語とは何かに関する古い有名な大論文を読み直した。筆者は1967年学部卒で、Minnesota大でPhD、現在Washington大(Seattle)教授だ。
Early Language Learning and Literacy, Patricia Kuhl, Mind Brain Educ. 2011/9: www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3164118/
まだ言葉が使えない赤ちゃんの脳の働きを測定するには、脳波の電圧波形、磁力波形、部分的活性化を赤外線で測定、MRIなどが使われる。東大IRCN研の辻助教は、la-la-la-raのように音素(母音と子音)が変った時だけ右前方に赤ちゃんの興味を惹く人形を出すことによって、音素が変ったら赤ちゃんが右前方を見る習慣を付ける手法で検査している。赤ちゃんに検査機を付けたりせず、自然のままで検査できるのが長所だ。赤ちゃんを調べると、音素習得が一番先行して生後12か月以内、構文は月齢18か月から36か月の間に発達し、語彙が爆発的に増えるのは18か月だという。
世界には、600個の子音と200個の母音があるそうだ。各言語はそれらから40くらい(松下はもっと多いと思うが)のグループを定義し、音素とする。カキの2度のkの子音は異なるが1つの音素だ。英語ではLとRは別の音素だが、日本語では、LもRもラ行の子音も1つのグループ=音素だ。発声を完全に習得するには8歳まで必要だが、口真似は20週間で始まり、異なる言語で育った10か月の赤ちゃんのたわごとは既に異なっていると。
月齢6-8か月の赤ちゃんは、全ての音素を識別する能力がある。例えばLとRを識別できる。しかし月齢10-12か月になると、米語で育った赤ちゃんはLとRをより鋭敏に識別するようになるが、日本語で育った赤ちゃんはLとRを識別する能力が低下する。母語で不必要な識別能力が残っている赤ちゃんは、その後の母語の言語発達が遅れるという。
多くの日本人は、まずい英語教育の結果、米語のRはラ行の子音と同じだと思っているが、これは大間違いで、R<-->ラ行の子音<-->L のような類似関係である。「舌先は下方に付け、舌の奥を高く上げ、下方45度から挿入した鉛筆を舌の左右で包む位置が米語のRだ」「ラ行の子音で上顎に付いた舌先を前歯の裏に近付け、舌の左右を開放したのがLだ」と私は教えている。この3種類の内、米語環境の母親は赤ちゃんにRとLを多用して語り掛け、偶にラ行の子音のようになることもある。日本語環境の母親は、舌の都合で偶然RやLのようになることもあるが、ラ行の子音が圧倒的に多い。赤ちゃんはその確率分布でグループ化=音素を習得するのだとこの論文は言い、統計的学習=Statistical Learningと呼んでいる。
米語で育った月齢9か月の赤ちゃんに、4-5週間に12回、合計数時間、中国人女性から中国語で話しかけた。すると中国語環境で育った赤ちゃんとほぼ同程度に、中国語の音素を識別できるようになった。但しビデオで同じ中国語を聞かせたのでは全く効果がなかった。赤ちゃんの社会的な脳の発達と音素識別能力の発達は密接な関係があることが分かったという。
母親が米語で、父親が日本語で育てた場合、赤ちゃんは両言語の確率分布を習得し、母親か父親かで切り替える。但し一言語だけの場合よりも習得に多少時間が掛るという。しかしBilingualで育った児童や大人は、弾力的に物事を考え、規則に縛られない仕事ぶりで優れているという。
また月齢6か月で母音2つを識別する能力を測定し、その子が13, 16, 24か月になった時、また5歳になった時の言語力を調べると、強い相関が認められたという。だから赤ちゃんに1年以内に沢山話し掛けると、言語能力の高い子が育つと論文はいうが、私は天与の言語能力かと思う。以上