米Bush政権はNeocon=Neoconservatism=新保守主義の牙城で、その思想がIraq戦争を起こしたと言われている。年末のNHK-TVに出演した日系米人のJohns Hopkins大教授が、自分はNeoconだがIraq戦争には反対だと言い、次の著書を最近出したと言ったので購入して年末年始に読んだ。
Francis Fukuyama, America at the Crossroads, Yale Univ. Press
今頃Iraq戦争に反対しても後出しジャンケンではないか。保身を図ったかとすら邪推された。しかしその不満を別にすれば、Neoconの解説、Iraq戦争との関係、米外交政策の提言、などが明快で大いに勉強になった。
Neoconは、伝統的保守主義に内在する(1)反移民などの純血主義、(2)保護主義、(3)孤立主義、などを排し、(4)役立てば独裁者とでも組むNixon−Kissinger流の実利主義とも一線を画す。その外交政策上の信条は、
1.米国のずば抜けた力は世界で倫理的目的に使えるし、使うべきだ。
2.諸外国に民主主義を普及させれば、民主国家は反米にはならない。
3.しかし諸外国の社会体制の大幅変革を試みても成功率は低い。
4.国連などの国際機関は役に立たない。
Neoconは1940年前後に、City College of New Yorkに進んだユダヤ人の一派が政治思想を機関誌に発表し始めたのが源流だという。当初は左翼的だったが、Stalinの圧政に幻滅し右傾化して保守主義に収斂した。その学派は1980年代のReagan大統領時代に、複数の機関誌とThink Tankの活動で存在を示したが、力を持ったのは2000年の現Bush大統領就任以降だった。Iraq主戦論者のChaney副大統領とRumsfeld前国防長官が強いNeocon信奉者で、Husseinさえ除けば民主国家になると、上記3.を軽視したという。
Bush政権は、日独が戦後民主国家になり、米国への脅威も消えたことを引用し、Iraqもそうするのだと戦端を開いた。Iraqが日独のような米国に従順な国になったら、Bush大統領を支える米石油資本はさぞ喜んだろうと私は邪推する。筆者は言う。民主国家の前提に国家確立が必要だ。日独は戦争前から教育レベルは高く人材は豊富で民主的な議会があった。(松下註:Hitlerも民主的に選出した) Iraqと比べるならPhilippines、Cuba、Nicaragua、Dominica、Haiti、Bosniaだが、軍事力で民主国家を作る試みで日独以外に成功例はない。逆に外交圧力、国内民主勢力への資金援助、民主教育などで国内改革勢力を支援し、国内努力でEl Salvador民主化, PhilippinesのMarcos放逐、ChileのPinochet放逐、Serbia/Geogia/Ukraineの民主国家建国などに成果が上がっている。軍事力のHard Powerより、Soft Powerの方がまどろっこしいが成功率が高いと筆者はいう。
米国でも先制攻撃を検討し実施した例はあるが、相手の脅威が顕在化していない段階での予防戦争に踏み出したのはBush政権が初めてだと。
国家が加盟した国連などの国際機関では国同士の利害対立で機能不全に陥ることが多く、Neoconの国際機関不信も分かるが、国が加盟メンバでないISO=国際標準機構などはもっと有効な活動をしていると筆者はいう。ISOも機器仕様だけでなく、品質規格ISO9000や環境規格ISO14000、さらには食料安全性など、政治に関係する問題にも取り組んでいる。また発展途上国では国際的なNPO、NGOの活躍も目覚しい。こういう国際機関の新設・活用がもっと必要と筆者はいう。アラブ世界では信用が落ちた米国の善意の支援も逆効果で、国際任意団体などを通して支援すべしとする。
そもそもIraqを民主国家にしても国際テロは無くならないと筆者はいう。西欧民主国家へのアラブ人移民が社会で孤立化し、急進イスラム主義に接してテロを起こすのだから、国際化経済の悪影響だという。
米国はBismarkに学ぶべきだと筆者はいう。独Bismark首相はAustria、Franceと戦って1871年に独統一を果たしたが、その後大変謙虚に振舞い近隣諸国が警戒して反独連合を作らぬよう腐心した。しかし後継者は四面楚歌を招き第1次世界大戦に追い込まれた。今米は友好国にさえ「米に勝手にさせたら大変」という警戒心を惹き起こしてしまった。米人は国内では権限集中を嫌うのに、国際社会では「俺に付いて来い」というのは矛盾だと筆者は苦言を呈している。良いことを言うではないか。 以上