朝日新聞11月22日朝刊の1面トップは、「景気「足踏み」急増」の見出しで主要企業100社のアンケートだった。6-7面にはその詳細があった。
朝日新聞には腹が立つことも多く、「朝日新聞は赤新聞だ。赤新聞の言い分も参考までに聞いておこう」と割り切ることで心の安寧を得ることにした。ただ朝日新聞社内には赤派と良識派と2派あるらしいことにも気付いて来た。安保法制成立の翌日、前者は感情むき出しの反対記事を社会面に掲げたが、政経面では安保法制を冷静に評価する学者のインタビュー記事を半頁以上にわたって載せたから私は驚いた。尤も末尾に「割り切れないものが残る」とかいう記者の感想が蛇足として付加されていた。11月22日の記事はアンケートをバランス良く分析した立派な記事で、良識派の手になるものと見受けられた。赤派が書けば「Abenomics失敗!! 楽にならぬ庶民の暮らし」とかで、対案もなく政府攻撃をぶち上げたはずだ。
ともあれ「景気は緩やかに回復中」という回答が、6月調査の92社から41社に激減し、「足踏み状態」が58社に増えたそうだ。その理由は「個人消費停滞」と「設備投資低迷(企業の消費低迷)」。個人消費低迷の理由は「賃金低迷」「円安で値上がり」「中国など海外経済の減速」だった。「賃金低迷」に対して企業の言い分は「賃上げしている」「法人税と硬直的労働規制が障害」とか。個人も企業も、Abenomicsの恩恵を受けている層と蚊帳の外の層とが完全に二分している現実が背景にあると思う。
今秋発表されたAbenomicsの「新三本の矢」の評価は、「一定の評価」が52社、「どちらとも言えない」が29社だったという。 2012年年末の「旧3本の矢」を振り返ってみよう。@デフレ脱却のための大胆な金融緩和、A機動的な財政出動、B成長戦略の実施、だった。このうち@金融緩和は目覚ましい成果を上げた。「金融緩和ではデフレは脱却できない」と堂々と論陣を張っていた日銀白川前総裁や日本の大部分の経済学者が今どんな顔をしているか見たいものだ。今年の上場企業は99社に増加したという。A財政出動はそれなりの効果を上げた。B成長戦略では、GDPはほぼ横這いだ。規制緩和が官僚を含む既得権者の反対で進まなかったのが原因だという説があり、私はそれも原因の半分と認める。
経営者冨山和彦氏は、役員を務めるOlympusのようにGlobalなG型企業と、氏が経営する宮城交通のようなLocalなL型企業とは、緩やかに影響し合う2つの別の産業界になってしまったという。G型は確かにAbenomicsで良くなったが、L型に恩恵は及ばず、反って円安による物価上昇で苦しくなっているという。これが成長できない理由の半分だと私は思う。
経済の向上が個人所得に反映されていないというが、これもG型の正規従業員の賃金は上がったが、L型と非正規は恩恵には遠く、消費税と物価上昇を織り込んだ実質賃金が悪化乃至横這いになっているため、個人消費が伸び悩みGDPを抑制している。即ち家計も二分化したということだ。
そこで安倍首相は9月24日に「新3本の矢」を発表した。@「希望を生み出す強い経済」。女性・高齢者・障害者の雇用を進め、「1億総活躍」で「地方創生」に注力し、2020年頃GDPを2割増の600兆円にすると。A「夢をつむぐ子育て支援」。待機児童ゼロ化、幼児教育無償化、多子世帯支援、結婚支援、不妊治療支援などの財政支援で、出生率を1.4から1.8にし、50年後も人口1億人を維持。B「安心につながる社会保障」。
参院選を睨んでか、ABは家計に目を向けている点が「旧」とは異なる。実際家計が潤わないとGDPは伸びない。但し「旧」に比べて施策化が弱く「3本の矢ではなく的(まと)だ」という悪口もある。悪いNewsは、中国の減速、テロの脅威増大、消費税増税。良いNewsは外人観光客増、農業改革着手、TPP合意、税収が伸びてデフレ突入以来の最高値に達した。
中国の減速とは言ってもまだGDP伸び率は年率7%に近い。日本は2013年度で+2.1%、2014年-0.9%、2015年4-6月は年率-1.2%だった。Abenomicsは色々批判もあるが、目を覆うばかりの財政累積赤字を抱えて恐らく唯一の馬の背型の細い尾根道だと思う。馬鹿な政治家やマスコミや選挙民が足を引っ張るが、負けずに推進して貰わないと日本が潰れる。 以上