日経ビジネス7/30号は、「ペロブスカイト型太陽電池」が「次世代太陽電池の本命」と報じた。エッ、それ何?
19世紀の露の鉱物学者 L.A. Perovski伯爵が発見し特定した「灰チタン石=Perovskite」という褐色の鉱物があるそうだ。結晶構造がユニークで、立方体の8つの頂点にカルシウム=Ca原子、その立方体の6つの正方形の中央に酸素=O原子、立方体の中心にチタン=Ti原子がある。即ち1個のTiの周りに6個のOが八面体(正三角形8個)の形で取り囲み、それに外接する立方体の形に8個のCaが配置される独特な形である。この立方体を3次元的に積み上げた結晶では、1個のCaは8つの立方体で共有され、1個のOは2つの立方体で共有されるから、化学式では CaTiO3 だ。このPerovskiteという鉱物と同じ形の結晶構造を「Perovskite結晶構造」と呼ぶそうだ。
2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授は、世界で初めて、このPerovskite結晶構造を持つ或る物質で太陽電池を作ったという。国立研究開発法人 科学技術振興機構 JST=Japan Science and Technology Agency (文科省)がこの研究を支援している。今太陽電池に関する世界の研究論文の大半はPerovskite型太陽電池だという大ブームが巻き起こっているそうだ。今世の中の太陽電池は9割方シリコン=Si系で、価格は高いが丈夫で、光を電力に変える変換効率が25%と結構大きいことが普及の理由だ。Perovskite型太陽電池の変換効率は最初は数%から始まり、昨今では22.5%の報告もあり、Siに匹敵してきた。しかも安くて曲げられて便利だという。また軽く出来るし、放射能に強いので、宇宙用には最適だともいう。但し現状では寿命がまだ千時間のオーダーで1年もたない。
宮坂教授のPerovskite結晶を上述のPerovskite鉱物と比べると、中央のTiの代わりに鉛=Pb、Oの代わりに臭素=Brまたはヨウ素=I、Caの代わりにNH3CH3という有機物で構成されている。構成原子は全く異なるが、結晶構造が同じということだ。この結晶に光を当てて励起すると、電子が遊離して自由電子となって浮遊し、跡に電子が欠損した正孔が残ってこれも浮遊する自由正孔になる。すかさずこの自由電子を吸収移動させる電子輸送材料と、同じく正孔輸送材料でPerovskite結晶をサンドイッチにすると、両輸送材料に電位差が生じるので、金属電極を付けて電力を取り出す。この原理を利用した平面的な太陽電池がPerovskite型太陽電池であり、サンドイッチ中央のPerovskite結晶を光活性層と呼ぶ。
Perovskite型太陽電池の良い点は、半導体的な製造法を要せず、ローラー印刷で製造できるので、安いことだ。また薄いプラスチックの上にでも形成できるので、曲げられる。欠点は、正孔輸送材料に酸性の要素を使うため、光活性層が傷んで寿命が短いことと、公害要因の鉛を使うことだ。そこで世界の化学者がこぞって新材料の発見に邁進していて、それが多くの研究論文を生み出している訳だ。工学的には、一様な薄膜をローラー印刷することは必ずしも容易ではなく、数センチ角の太陽電池が中々安定的に作れないそうだ。
2017年9月に東芝は、ペナペナのプラスティックフィルム上にローラー印刷する技術を開発し、そういう条件では世界最高の変換効率10.5%を実現したと発表した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がこれを支援し、今年6月に両者は703cm2で11.7%の試作品を報道発表した。今年4月に東大理学系化学の中村栄一特任教授らの研究グループは、中性で高機能かつ安定な正孔輸送材料「BDPSO」を開発したと発表した。これで寿命が千時間にまで伸びたのだが、まだまだ実用には遠い。しかしここまで来れば後は時間の問題という気がする。
Si系太陽電池産業は日本が先行したが安値競争で中国に敗れたので、政府はこの日本発のPerovskite型太陽電池の実用化を支援している。
屋根上の太陽光パネルや大規模太陽光発電所にPerovskite型が使われるには、寿命/価格の比がSi系を上回らねばなるまい。一番先行しそうなのは宇宙応用、次いで曲げられることを特徴として、車体やドームに取り付ける太陽光パネルへの普及が早いのではないか。期待して待とう。以上