恒例のNHK技研公開に出掛けた。技研の3年間の重点開発項目は、(1)放送・通信の連携、(2)高臨場感の放送、(3)人にやさしい放送、とのこと。(1)の「通信」とはほぼInternetのことだ。NHKは既にHybridCastの名で昨年9月に放送画面にInternet情報を重ね、登場人物や背景やレシピなどが検索表示できるサービスを開始しているが、こういう多画面表示または手元の別端末でInternet情報を放送と連携させるサービスを更に進化させるとのこと。(2)では更なる高精細を狙い、また眼鏡不要の立体TVを開発し、更にスピーカを部屋のあちこちに置かなくても受像機のスピーカだけで臨場感を出せる音声システムを研究している。(3)は障害者を従来対象として来たが、外人・老人を含めて視聴し易いTVを指向している。
公開展示の注力点は高精細SuperHiVisionの8K TVだった。8K TVは2016年試験放送、2020年本放送を狙っている。そのため受像機だけではなくカメラ、変調、伝送、BS/地デジ/ケーブル放送の送信などを揃える。
既に世の中から姿を消した(我が家ではまだ使っているが)アナログTVは、画面を525本の走査線(水平の線)で描いていた。これを標準精細TV=SDTV=Standard Definition TVと呼んでいる。現在我々が見ているBS/地デジの高精細TV=HDTV=High Definition TVのHiVision(NHKの命名)は、 1,080本の走査線で描いており、横1,920画素×縦1,080画素、で、16対9の縦横比(Aspect Ratio)である。横画素数が約2千なので、2K TVという。2倍の走査線の「2」と考えてもよいがそれだと「K」の説明が付かない。
2K TVの倍の、横3,840画素×縦2,160画素の4K TVは、昨年の技研公開を飾り、昨年6月にソニー、シャープ、東芝が発売し、他社も追随した。放送もしていないのに消費税増税前の高価格商品駆け込み需要で大いに売れてヒット商品のひとつになった。コンテンツはどうなっているのか? (1)2K TV放送に受像機側で高度な画像処理を加え4Kにする機能を内蔵している。(2)4K DVDが出ている。(3)CS放送で6月2日から放送開始。(4)BS・110度CSは当初2016年放送開始予定だったが、4K受像機販売促進を狙って今年7月に前倒しし、サッカーWCの決勝戦には間に合わせるとしている。
なおSDTVと2K TVはインターレース走査=Interlaced Scanningをしている。つまりまず1本おきの半分の走査線で全体を描き、次に残りの走査線で描く。少ない走査線で画面のチラツキを抑えるRCAの大発明だ。残像の長いブラウン管を使えばチラツキは無くなるが高速移動物体は尾を引く。その調整が難しかったのだ。昔のブラウン管を使ったパソコンでは、高速に変化する映像を扱わなかったから、Interlaceのような面倒はせず、上から順番に走査線で描いた。それをProgressive走査という。そのうちにパソコンは勿論TVすらもブラウン管は使わなくなり、上記のような配慮は不要となったので、4K TV以降はProgressive走査だ。
8Kは勿論4Kの倍で、7,680画素×4,320画素のProgressive走査だ。しかも4Kまでは毎秒60回画面を書き変えているが、8Kは120回書き換える。目測100インチの8K TVに近付いて凝視したが、画素のツブツブが見えるか見えないかだった。こういう大画面を使った公共視聴は良いとして、家庭用に8Kは宝の持ち腐れだろうと、負け惜しみを言いたくなるが、その回答の一つが上記のHybridCastで、文字が鮮明に見えますということだ。
現行のHiVision 2Kに対して、8Kは画素数で16倍、走査回数で2倍、合計32倍の情報量だ。複数の説明員に尋ね明確な回答は貰えなかったが、およそ情報圧縮で8倍、変調方式で4倍くらいを稼ぎ、同一周波数帯に収めようとしている。なぜかケーブル放送だけは複数チャネルを束にして使う。地デジでは現在1偏波しか使っていないのを、直交2偏波でMIMO技術(反射波を有効利用)を使う。技術的完成度は高い。商業的にはどうだろうか。
8Kの先を狙う眼鏡不要の立体TVは、暗い部屋の30cmほどの画面で目の粗い画像をデモしていた。確かに立体に見える。立体絵葉書は縦に配置したカマボコ状のレンズを無数に置いているが、同様の原理でデモ装置は微小レンズを2次元に配置し、両目が水平でなくても立体的に見える。
NHKが指向しメーカを指導して行く次世代TVを具体的に知った。 以上