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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2002年 6月 6日
            日本病

 英国病はThatcher首相が退治したが、今や日本病が顕著だ。これが今回世界一周の旅で感じたことの重要な一つである。今回は74日間に発展途上国を中心に15カ国・地域、32カ所を訪れたので、表面的ながら短期間に世界の各国を対比した形になった。その主観的印象を下表に採点した。

  国    豊かさW 国民の熱心さE 達成度W/E

  中国    30     100     0.3
  香港    60      80     0.7
 Vietnam   10     100     0.1
  印度    10      20     0.5
  南阿    60      70     0.9
  Brazil    40      40     1
  米国    100      80     1.2
  日本    80      40     2

 達成度W/Eは、現在の努力に比例した豊かさを享受しているかどうかという主観的な比率である。つまり日本は過去の努力で得た豊かさに安住して、それに比例した努力をしていないという感想の表現である。逆にVietnamや中国がもっと発展するのは当然と思えてきた。

 船が上海に到着する予定は4pmだったのだが、黒潮が強すぎたのと、揚子江を遡る100kmが低速の貨物船で一杯で追い越せなかったため、上陸が予定よりも4時間近く遅れた。上海では友誼商城という観光ショッピングセンタに港からシャトルバスが出た。9:30pm閉店までにほとんど時間が無かったのだが、何と我々のためだけに4フロアの店の閉店を11pmまで延長し数十名の店員を残業させてくれた。金持ちの乗客が多いから経営的には正解としても、また特別残業料を出すとしても、日本で「船が遅れたから今日は11pmまで開店」とその日の午後にアナウンス出来るだろうか? 否だと私は思う。それだけこの共産国の国民は生活向上に熱心なのだ。

 香港は返還前の1994年に遊びに行って以来の訪問だった。心なしか前回よりも活気に陰りがあるように見えたが、依然豊かな街だった。早朝散歩で九龍公園を歩くと、早朝にも拘わらず大勢の人が太極拳に精を出していて、中国人のエネルギーを体感した。

 Hanoiでも夜明けを待ってホテルから散歩に出た。偶々その日は日曜日だったのだが、暗いうちから老婆が歩道に朝食提供の鍋を出し、公園では暗いうちからジョギングの人が絶えなかった。昼間の街では天秤棒で果物や食品をかつぎ歩道で販売するオバサンが多かった。我々観光客にまとわりついて土産物を売りつけるオジサンは非常に熱心だった。こういうVitalityは日本では見られない。Vietnamは中国を数年乃至十年後から追いかけているように見えた。今日本経済は中国に痛めつけられているが、中国の後にはVietnamが控えていることに留意しなければならない。

 印度とBrazilには現実肯定・享楽型の雰囲気があってやや例外的だが、一般には国民の生活が貧しいほど抜け出ようと一生懸命に努力する国民の熱意が感じられるものだ。その典型が中国とVietnamである。しかし米国は豊かであるにも拘わらず、American Dream実現への努力がある国だ。

 日本は競争とストレスの少ない暖かい国だ。だから世界的視点で見れば国民が現状に安住して努力が足りない。これが「日本病」の本質だ。特にHawaiiで見かけた日本の若い観光客で感じたのだが、彼らは「不当に豊かな生活」を享受しており、不当さに気付いていない。今日本経済が苦境にある本質は、努力に比して不当な豊かさを示す高いW/E比が、中国を典型とする低いW/E比に幅寄せされているに過ぎないのではないか。Wがもっと低下するか、あるいはEをもっと向上させないと定常状態には達しない。後者の特効薬は米国流の競争原理の各局面への導入しかない。これは日本の伝統である共存共栄の美徳と矛盾せざるを得ないけれども。  以上